原爆被害を調べる人のためのガイドブック「ヒロシマ調査・研究入門」
広島市立大学広島平和研究所が、大学開学30周年記念事業として「ヒロシマ調査・研究入門」を刊行しました。
大芝亮所長は、本書発刊の目的を「はじめに」で次のように記しています。本書の特質が書かれているように思いますので、少し長くなりますが、その一部を引用します。
「本書を参考に、広島原爆被害について、ぜひ、自分自身で資料を見、証言を聞いて欲しい。慰霊碑・慰霊祭や被爆建物などを訪問し、原爆被害を受け、それを語り継ぐ『現場』を自分なりに体感して欲しい。・・・被爆に関する資料や証言、そして被爆建造物は、決して自然に残ったわけではなく、それらを残そうとした人々の営みにより保存された。その取り組みの歴史を辿ってほしい。」さらに「個々の資料や証言、被爆建物や慰霊碑・慰霊祭などは、一体どのような意味を持つのだろうか。本書の解説を一つの参考にして、自分なりに考えてほしい。」
最後に「全国には、長崎の被爆資料・被爆建物をはじめ、それぞれの地域に戦争被害を示すものが残されている。広島の取り組みとそれぞれの地域の活動の『つながり』についても考えたい。また、諸外国における原爆観にも留意する。」
本書は、「1章 調査研究ガイド 2章 広島で調べる 3章 広島を体感する 4章 日本で調べる 5章 原爆被害・核問題を知る扉」の五つの章で構成されています。
1章の「調査研究ガイド」では、「文献」や「被爆体験」などの資料ごとに調べ方の基礎をまとめています。かなりの検索方法が網羅されていますので、私もそうですが「どこで調べれば良いか」と思っている人にはほんとうに参考になります。
2章の「広島で調べる」は、広島平和記念資料館をはじめ、広島市内で原爆被害に関する資料を保存し、展示する施設を紹介しています。私が訪れたことのない施設も紹介されています。さらにこの章では、原爆被害のみならず「戦争を調べる」ための施設も紹介されているのが特徴だと思います。
3章の「広島を体感する」は、「8月6日をめぐる」のサブタイトルがあり、8月6日前後の市内各地で行われる慰霊・追悼の行事が紹介されています。例えば、「義勇隊の碑」で行われる「川内・温井義勇隊慰霊祭」の項では、碑の説明をした後、式典の様子ではこんな下りがあります。「同時刻に平和記念式典が近くで開催されるため、式典に参列する要人が通る度に中断を余儀なくされてしまうが」こう書けるのは、川内・温井義勇隊遺族会の関係者に直接話を聞いているからです。私も浄行寺を訪れ住職から聞いて初めて知った話です。実際に足を運び、情報収集したことがよく分かります。
これは一つの例ですが、他にも原爆供養塔前で行われる「原爆死没者慰霊行事」では、他の原爆供養塔を紹介するものの中では、ほとんど触れられることのない「宗派を超えた合同慰霊祭が執り行われている」ことが紹介されています。
私は、これ一つとっても、本書は貴重だと思います。
まだ全部を読み切れていませんが、多にもこんな充実した内容があると思います。
4章の「日本を調べる」については、少し長くなってしまいましたので省略します。
5章の「原爆被害・核問題を知る扉」は、平和研究所の本らしく、もっとも多くのページが割かれ、様々な分野からの情報が提供されています。その中で私が特に注目したのは、「まえがき」でも触れられている第二次世界大戦の被害地である「朝鮮半島」「中国」「東南アジア」そして原爆を投下した「米国」、それぞれからみた「ヒロシマ」が記述されていることです。
全体を通じて、さらにもっと内容を深めたいと思う人のために、「もっと調べる」として多くの書籍が紹介されているのも参考になります。
この本の発刊に当たっては、編集委員会がつくられたようですが、その中心は、同大学の准教授四條知恵さん、竹本真希子さんのお二人だったようです。
二人の精力的な活動に敬意を表したいと思います。
本書は、定価は消費税込みで1980円ですが、充分に価値のある本だと思います。そして多くの人に手にして欲しい本です。
いのちとうとし
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