「屍の街」の章題―つづきのつづき
市民文庫版については、「全集第一巻」の「収録」で、「『章題』を削除した」ことがと明記されています。市民文庫版は、大田洋子存命中に発刊されていますから、小田切秀雄が解説しているように当然「作者の意思で削除」されたことは、間違いありません。「章題」がないことは、本を開き確認しました。
ですから、その後に発刊された「潮文庫版」にも「章題」がないのは当然だといえます。
この市民文庫版の最後には、佐々木基一が書かいた「解説」があります。佐々木基一は、大田洋子と同じ原爆文学作家と言われる原民喜の義弟で、「夏の花」の出版に深く関わった人です。ですから、解説の中でも原民喜と大田洋子に連なる原爆文学についての記述がほとんどで、「『章題』を削除」した理由の手がかりのようなものは書かれていません。ここでも大田洋子がなぜ、この版から「章題」を削除することにしたのかという「手がかり」となるものを見つけることはできませんでした。
「全集第一巻」の「収録」では、潮文庫版の発行が最後の出版になっていますが、そのことについて佐多稲子が同書の解説の中で次のように語っていることを紹介します。
「大田さんの作品は、生前でも『屍の街』が絶版になっていて、外国から送ってくれと言われても送る本がないのよ、と大田さんが言うのをきいたことがありますし、その後も長くこういう作品が絶版になっていることを、私は大変つらく思っていたのです。・・・今度みなさんのお骨折りで作品集が出ることになって、私も本当にうれしいのです。」
潮文庫版以降、1982年に『大田洋子全集』が出版されるまで、10年間新しい版での出版が無かったことが分かります。
少し横道にそれましたが、「章題」に戻ります。先にも書きましたが、この「全集第一巻」に収録された「屍の街」には「章題」がついています。その理由は、浦西さんの「解題」では「*底本 冬芽書房版『屍の街』(昭和25年5月30日)」と書かれていることでハッキリします。つまり、この全集は、「章題」がつけられていた冬芽書房版を底本(複製本の原本、よりどころとする本)としたからです。以降出版された「屍の街」は、この全集に準じたものと思われますので、私が持っている「潮文庫版」以外は「章題」がついていると考えられます。
ここまで調べましたが、残念ながら私の疑問は解決していません。作者の意思で削除された「章題」が、なぜ作者の意思を無視して「全集」で復活したのか、疑問は残ったままです。先に紹介した潮文庫版の「解説」で、確かに小田切秀雄も「各章の題はあってもよかったのだが」と書いていますので、文学的センスのない私も「章題」(「鬼哭啾々の秋」「無欲顔貌」「運命の街・広島」「街は死体の襤褸筵」「憩いの車」「風と雨」「晩秋の琴」)があった方が良いように思います。しかし、だからといって「章題」を削除した作者の意思を無視して良いはずはないと思います。
もし「章題」について大田洋子が書いたとする新しい資料が、「潮文庫版」出版以降に発見されたというのであれば別です。ただ今回調べた限りでは、そんな資料が見つかったという研究発表を得ることはできていません。
「全集第一巻」の「解題」には、「*異同 生原稿と底本(冬芽書房版)との主な異同をあげる」として、生原稿が底本ではどのように異同しているかを49点にわたって、丁寧に記述されていますが、「章題」についての記述はありません。
小田切秀雄は、「大田洋子全集」の栗原貞子さんなど6人の刊行委員会のメーバーの一人ですが、「全集」発刊に当たって、「章題」のことは、なぜ問題にならなかったのでしょうか。触れなければならない問題だったと私は思いますが、残念ながら私が調べた限り、触れられた形跡がありません。
私に調べられる範囲は、ここまでです。誰か「屍の街」の「章題」について研究し、「なぜ全集で復活させたのか」その理由を教えて欲しいなと思います。
一回で終わるつもりのー「屍の街」の章題―がこんなに長くなってしまいました。
(敬称略)
いのちとうとし
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