ヒロシマとベトナム(その66-2)
騙され、騙す
昭和初期に活躍し日本映画の基礎を築いた監督の一人、伊丹万作が1946年(昭和21年)8月に創刊された『映画春秋』に寄稿した一文を初めて目にしたのは1990年11月1日でした。「戦争責任」と題する一万字弱の寄稿文、少し長いですが書き出し部分を紹介します。
「多くの人が今度の戦争で騙されという。みながみな口を揃えて騙されたという。私の知っている範囲ではおれが騙したのだと言った人はまだ一人もいない。ここらあたりからぼつぼつ分からなくなってくる。多くの人は騙した者と騙された者との区別ははっきりしていると思っているようであるが、それが実は錯覚らしいのである。例えば、民間の者は軍や官に騙されたと思っているが、軍や官の中に入ればみな上の方を指して、上から騙されたと言うだろう。上の方に行けば、さらにもっと上の方から騙されたというに決まっている。すると、最後にはたった一人か二人の人間が残る勘定になるが、いくら何でも、僅か一人や二人の智慧で一億の人間が騙されるわけのものではない。すなわち、騙していた人間の数は、一般に考えられているよりも遙かに多かったに違いない。しかもそれは、『騙し』の専門家と『騙され』の専門家とに豁然と分かれていたわけではなく、いま、一人の人間が誰かに騙されると、次の瞬間には、もうその男が別の誰かを捉まえて騙すというようなことを際限なく繰り返していたので、つまり日本人全体が夢中になって互いに騙したり、騙されたりしていたのだろうと思う。このことは、戦争中の末端行政の現れ方や、新聞報道の愚劣さや、ラジオのばかばかしさや、さては、町会、隣組、警防団、婦人会といったような民間の組織がいかに熱心にかつ自発的に騙す側に協力していたかを思い出してみればすぐに分かることである。」
続きは「伊丹万作全集」(1)「戦争責任の問題」を手にしていただくとして、あらためて噛み締めたいと思っている一節をだけ書き足します。
「『騙されていた』といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でも騙されるであろう。いや、現在でも既に別の嘘によって騙され始めているに違いないのである。」
「反軍演説」 斎藤隆夫の政治姿勢
随分と長くなってしまいましたが、もう一人尊敬する人を紹介します。1940年(昭和15年)2月2日、帝国議会衆議院本会議場で行った「反軍演説」のために、国会を除名された斎藤隆夫です。「反軍演説」そのものも、鋭く感銘深いものですが、除名された後に詠んだ漢詩が特に心に残っています。。
1940年 斎藤隆夫
吾言即是万人声 〔吾ガ言、即チ是レ万人ノ声〕
褒貶毀誉委世評 〔褒貶毀誉(ホウヘンキヨ)、世評ニ委ス〕
請看百年青史上 〔請ウ看ヨ、百年青史ノ上〕
正邪曲直自分明 〔正邪曲直、自ヅト分明〕
「昭和100年」を迎えた今、伊丹万作の言葉、斎藤隆夫の言葉がそのまま響きます。
次号では、泥沼に入った日中戦争からインドシナ侵攻、パールハーバーへと突き進んだ昭和を見たいと思います。
(2025年2月6日、あかたつ)
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