栗原貞子作「原爆で死んだ幸子さん」ーその1
被爆詩人として原爆の非人道性を告発して多くの作品を残された栗原貞子さんの作品の中で「生しめんかな」とともに繰り返し読まれた詩に「原爆で死んだ幸子さん」があります。
2005年7月に発刊された「栗原貞子全詩編」によれば、「原爆で死んだ幸子さん」が作詩されたのは、「1952・5・25」だとし、「幸子さんは、広島県立第一高女(現在の皆実高校)の一年生で、8月6日土橋の建物疎開に動員されて亡くなった隣家の少女である。」と栗原さんが記していることを紹介しています。
最近本棚を整理していると(いつ購入したのか思い出せないのですが)、この「原爆で死んだ幸子さん」のもととなる体験記が書かれた本が見つかりました。
その本には「No moro Hiroshimas ヒロシマを忘れるな」のタイトルがついており、奥付は「1950年8月1日発行 発行所 東京都墨田区東両国2-7 自由青年出版社 編集兼発行人 中村武雄」と記載されています。
本を開くと、最初のページに「軍閥への憎しみたぎれ怒りもえよ ああ崩れゆく呪われし街 宗俊」という短歌とともに「長崎上空における原子雲」「瓦礫の街と化した広島市」の説明文がつけられた2枚の写真が掲載されています。
次のページの見開きには、峠三吉の「八月六日」の詩が、丸木位里・赤松俊子共同制作「原爆三部作」のうち壹の部の一部の絵が掲載されています。
この本、ただ者ではないように思えます。
「まえがき」もなければ、「あとがき」も、「目次」もありませんが、ページをめくると次々と体験記や手紙、詩などが掲載されています。それぞれの多くには、冒頭に「宗俊」の名前で短歌つけられています。「宗俊」は、深川宗俊さんだと思われます。被爆の傷跡が残る被爆者や被爆後の街の様子を映した写真が、何枚も載っています。
四國五郎さんの「こころに喰いこめ」と題した詩、峠三吉の「影」、そして赤松俊子さんのデッサンが何枚もカットで使われています。「ストックホルムアピール」も掲載されています。
最後に掲載された「平和への訴え」と題したアピール文は「広島平和擁護委員会世話人会」となっていますので、この組織に所属する人たちが、発行したものと思われます。
実は、この中の一片に栗原貞子さんの「原爆で死んだ幸子さんの死体を引き取りに行った」体験記があるのです。
体験記を全文紹介するつもりですが、「No moro Hiroshimas ヒロシマを忘れるな」について、もう少し触れさせてください。
1950年の印刷ですので、不鮮明な点はありますが、この時期にこれだけ多くの被爆関係の写真を掲載し、被爆の実相を伝える体験記が記述された本が、プレスコードがある中で、よく無事に発行できたなという思いがします。東京の出版社が発行していますので、全国で販売(定価は25円となっている)されたと思われますので、余計にそう思います。どういう経緯があったのでしょうか。もうこの時期には、プレスコードによる検閲もそんなに厳しくなかったのでしょうか。
私が原水禁運動の歴史を考える中で、全国的に広島、長崎の被爆の実相を伝えた出版物は、サンフランシスコ講和条約の発効(1952年4月27日)によってプレスコードが失効した後、「原爆被害の初公開」とタイトルをつけて発行された「アサヒグラフ 1952年8月6日号」とばかり思っていたのですが、これを訂正しなければならなくなったように思います。
ここまでが長くなってしまいましたので、紹介しようと思った栗原貞子さんの体験記は、次回紹介します。
いのちとうとし
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