ヒロシマとベトナム(その60) ~南シナ海をめぐる動向-4~
エスカレートする中国とフィリピンの対立
この一年あまり、南シナ海のセカンド・トーマス礁で領有権を争う中国とフィリピンの対立がエスカレートしています。セカンド・トーマス礁は英名でフィリピン名(タガログ語)はアユンギン礁、中国名は仁愛礁、ベトナム名はバイコメイ礁と、各国が領有権を主張しています。
フィリピンは1999年にこの海域にアメリカから委譲された軍艦「シャラ・マドレ」を意図的に座礁させ、兵士を駐留し実効支配を始めました。2015年には腐食が進み倒壊の恐れがあった軍艦をコンクリートで補強しました。その拠点化した軍艦に交代要員や食料などの物資を定期的に輸送するフィリピン軍に対し、中国海警局艦船が妨害を繰り返し、次第にエスカレートしているのです。
前にも紹介しましたが、この海域は世界の漁獲量の12%を占める水産物の宝庫であり、天然資源にも恵まれ、戦略的に重要な海上交通路(シーレーン)です。
座礁させたシャラ・マドレ号、2014年8月撮影
出典:ロイター通信、2023年8月19日
下の地図をご覧ください。台湾とフィリピンの間のバジー海峡から南シナ海に入ったシーレーンは、中国が実効支配するスカボロー礁(中国名:民主礁、フィリピン名:バホ・デ・マシンロック礁)の西側を経て、フィリピンが実効支配し中国と衝突を繰り返しているセカンド・トーマス礁の西海域を通り、マラッカ海峡を抜けインド洋や太平洋へ入ります。
この海域は世界の3分の一の貨物が行き交う海上輸送の生命線です。また、中国のインド太平洋への進出を阻止したいアメリカとその同盟国にとっての軍事的な生命線でもあります。
その意味で、中国とフィリピンの対立は単なる二国間の問題ではなく、アメリカ、日本、フィリピン、オーストラリアなど軍事同盟国および準軍事同盟国と中国の対立と言えます。
6カ国が領有権を争う南シナ海でも最もホットな海域、セカンド・トーマス礁をめぐる動向は大きな火種になる危険性があります。
とりあえず対話と協議で危機回避
中国海警局艦船によるフィリピン艦艇などへのレザー光線照射や放水銃の発射、艦船の衝突が相次ぐ中で、6月末、マルコス比大統領は「(フィリピン側に死者が出た場合)ほぼ間違いなくレッドラインだ」と、米軍とともに何らかの軍事的な対応をとる可能性を示唆し、強く中国を牽制しました。
その半月後の7月17日、フィリピン軍のボートに中国海警局艦艇が衝突、強引に乗り込み臨検した際、フィリピン兵士がナイフで親指を切断されるという、これまでに無い深刻な事態が発生しました。
首都マニラ市でのデモや中国が実効支配するスカボロー礁(中国名:民主礁、フィリピン名:バホ・デ・マシンロック礁)に近いルソン島西部の港で大規模な反中国の海上デモが起こるなど反中国世論が高まり、さらなる衝突のエスカレーションを心配しました。
しかし、7月22日にフィリピン外務省が「両国は南シナ海における状況を沈静化させるとともに、対話と協議を通じて相違を克服し、同海域を巡る相手側の立場を損なわないことで合意する必要性を認識し続ける」と発表し、中国外務省も「(座礁させた軍艦への)人道的な生活物資の輸送に関する暫定的な取り決めに合意した」と発表し、とりあえず、これ以上の緊張を避ける方途が摸索されていることに“ホット”としました。
しかし、この南シナ海にとどまらず世界情勢は決して、協調と対話による平和で豊かな共生社会へと向かっているとは言えません。偏狭なナショナリズムや自国ファーストが幅をきかせ、武力を背景にした脅しと実際が支配しようとしています。
次回(9月5日)はアメリカ、日本、フィリピン、オーストラリアで進む軍事的連携の強化について見てゆきたいと思います。約束していたフィリピンが提訴した南シナ海仲裁裁判については次々回(10月5日)に報告します。
(2024年8月20日、あかたつ)
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