「イペの花の下の被爆者」在ブラジル原爆被爆者協会資料展―その2
7日のブログ(「イペの花の下の被爆者」在ブラジル原爆被爆者協会資料展: 新・ヒロシマの心を世界に (cocolog-nifty.com)のつづきです。
資料展の中で最も重要な資料は、1988年秋に在ブラジル被爆者協会が、南米各地に散らばる被爆者に届けた「在南米被爆者調査」の調査結果報告です。
当時、ブラジル、ボリビア、アルゼンチン、パラグアイ、ペルーの南米5国の被爆者188名に対し協力を求めて調査用紙が送付されました。
この調査用紙には、「この調査書は、被爆者の支援のための大事な資料とする」と記した後、在ブラジル被爆者協会の理事長だった森田隆さんは、以下のように記しています。
「日本では今、大国となり世界各国ヘの借款、難民救済、その他に多額の援助をしておりますが、海外に居住する被爆者は、国内の被爆者とも差別され医療手当もありません。
現在南米諸国は最悪の経済事情下に有り、日本から巡回医師団が派遣され、要治療の被爆者が居ても、日本に帰国治療することは勿論,移住国内での医療費にも事欠くような状態です。」
広島の在南米被爆者への健診事業が開始されたのは1985年から(北米は、1977年に健診事業が開始された)ですが、この健診事業では、被爆者の医療への不安を解消することはできないということを森田さんの言葉は示しているといえます。
この調査用紙で私が興味を持ったのは、調査項目です。全部で35の設問がありますが、次のように9つのカテゴリーに分類されています。
①基本情報
②被爆当時の健康被害
③被爆当時の体験と家族の被害
④その後健康と生活への影響
⑤家族への被害(昭和21年以降の死没者)
⑥現在の健康と生活の状況
⑦被爆者としての苦しみと生き方
⑧核兵器廃絶と援護法制定
⑨被爆者・被爆二世のこと、海外移住
特に私が注目したのは「⑧核兵器廃絶と援護法制定」の項目です。ここには次のような文章が付け加えられています。「日本は戦後、国策である国民の海外移住を再開し、多くの人々を南米に送り出しました。広島、長崎での被爆者には、被爆の日から健康に多くの問題がありましたが、移住した被爆者のほとんどは、役所で被爆者であるかどうか確認されないまま、移住を許可されました。」
援護の対象から置き去りにされた海外移住被爆者の無念の思いが伝わります。「核兵器廃絶」の問題を問いかけられていることに1980年代の核廃絶世論の高まりが反映されたものではと感ずるのは私だけでしょうか。
以下に若干の調査概要を紹介します。
1989年3月までに返送された回答は139名で、約75%の回答率です。被爆地は、広島62%、長崎38%。被爆者健康手帳の所持しているのは32%です。当然のことですが、何らかの被爆者手当を受給している人は0です。「どれも受けていない」と回答した131人の内、受けていない事情で一番多いのは、「手当のことを知らなかった 43」「申請が認められなかった 30」の二つです。当時の在外被爆者(特に在南米被爆者)に対する援護の状況がよく分かります。
この手当の問題が、在外被爆者にも認められるようになるまでには、この時から14年の時間を要することになります。
この資料展を見ながら、長い間放置された在外被爆者への援護の実態に対し改めて責任を感ずることになりました。
この資料展は、5月17日まで開催されていますので、会場で資料と向き合い、在外被爆者が置かれていた実態に目を向けて欲しいと思います。
いのちとうとし
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