はだしのゲン
この春、広島市教委は「平和教育プログラム」を改訂し、今年度の「ひろしま平和ノート」から「はだしのゲン」等を削除しました。有識者会議において、「漫画の一部では被爆の実相に迫りにくい」、「浪曲の場面は児童の実態に合わない」、「鯉を盗む描写は誤解を与える恐れがある」等の課題が出されたため見直すことにした、とのことですが、その議事録を確認しても、議論の末に削除すべきとの結論に至った様子はありません。
広教組広島支区は、このことが明らかになってすぐに組合員の声を集めるとともに、より広く現場の声を集約するため、広島市立小学校(141校)の全校長宛に手紙を送付し、実際に2022年度に「はだしのゲン」を教材として使った3学年の担任に渡してもらう形でアンケートを行い、42校85件の回答を得ました。
「はだしのゲンを平和教材として使ってみてよかったか?」という設問に対し、7割が「よかった」と回答し、「よくなかった」は1人のみ。どこに教材を変える必要があるのでしょうか。
一方、気になったのは「どちらでもない」の多さ(3割)です。「今後もはだしのゲンを教材として使いたいと思うか?」に対する回答となると、「どちらでもない」は更に増えて5割となります。どうして「どちらでもない」なのでしょう。もしかしたらこれは、「どちらでもいい」、「どうでもいい」なのではないでしょうか。
広島市教委は改訂の趣旨を、「先生たちに負担なく教えやすいものに」とも言いました。でも、人権・平和を学ぶ教育が、そんなインスタントのようなものでいいの?と思います。業務削減すべきは、そこではないでしょう。
学校現場は多忙を極めています。教職員も、言われたとおりにやる方が楽です。しかし、自分で考え行動することを怠ると、教育は権力に都合がよいものに変質するのです。
5月、市民生活に多大な制約を及ぼし、広島G7サミットが開催されました。街には警察官があふれ、あちこちにバリケードが設置され、異様な光景でした。「広島ビジョン」は、広島の名のもとに、核兵器禁止条約に背を向け、「核抑止論」を肯定するものでした。平和記念公園とパールハーバー国立記念公園との姉妹協定、原爆投下責任の議論の「棚上げ」発言等と一本の線でつながり、広島市がすすめる平和行政そのものの変質を疑わざるを得ません。「平和教育プログラム」改訂もその線上にあるのでしょう。
私は、久しぶりに「はだしのゲン」を読み返し、戦争や原爆の恐ろしさ、愚かさ、個の尊厳を踏みにじる大きな力への怒り、被害と加害、その中でも信念を曲げず、声をあげ、人としてのぬくもりを決して奪われないゲンたちの姿に圧倒されました。この「真理」が不都合な人たちがいるのです。
何を使って何を子どもたちに伝えたいのかに立ち返り、平和教育を「自主編成」していく大切さ、点から線へ面へとひろげていく必要性を感じています。
よりのぶ
【編集者】今月から、広教組の皆さんから原稿を送っていただくことになりました。今日はその第一号です。
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