柳田邦男著「空白の天気図」ー黒い雨
4月4日のブログ「空白の天気図―気象台員たちのヒロシマ-」: 新・ヒロシマの心を世界に (cocolog-nifty.com)の最後に「これを機会に『空白の天気図』を読み直したいと思っています。」と書きましたが、ようやく柳田邦男著「空白の天気図」を読み終えました。
手元にあったのは、新潮文庫の初版(昭和56年7月25日発行)です。
ずいぶん前に一度は読んだことがあったはずですが、「あっこんなことが書いてあったのだ」と思う場面の数々に出会いました。
特にその思いを強くしたのが、「黒い雨」のタイトルの付いた第5章です。
柳田さんは、この著作の中で「黒い雨被爆者」の命運を分けることになった「宇田雨域」が、どういう経過を経て調査され、決定したのかを詳細に記述しています。
もちろんその後の「黒い雨訴訟」では、この宇田雨域が大きな争点となるのですが、私が関心を持ったのは、「黒い雨の降雨地域」の調査することになったきっかけです。
「空白の天気図」の中では、その時の様子が次のように記されています。少し長いのですが、引用します。
「宇田は、原爆で皆実町の自宅が破壊されたため、原爆後は爆心地から西に4.2粁程離れた郊外の高須に移り住んでいた。子供は三人いたが、そのうち一人だけ親許を離れて疎開していた小学校六年生の次男が、十月になって疎開先から帰ってきた。ところが、その次男が、広島に帰ってまもなく髪の毛が脱ける脱毛症状を起こした。高須から己斐にかけての一帯では、脱毛したとき下痢をしたという話をよく耳にしたので、宇田は次男も残留放射能にやられたに違いないと心配した。それにしても二ヶ月も経っているのにおかしいと思っていたところへ、近所に理化学研究所の調査班が残留放射能の調査にやって来た。調査班は、理研仁科研究室の宮崎友喜雄と佐々木忠義という二人の若手研究員だった。宇田は、仁科研究室の人たちと顔見知りだったので、自宅へ招いて、昼食をふるまった。
宇田は、宮崎、佐々木の二人に、原爆のときは広島に居なかった自分の次男が最近疎開先から帰ったら急に脱毛したのだが、このあたりはまで強い放射能が残っているのだろうか、と尋ねた。『この付近の泥を測定しますと、どうもかなりかなり高い放射能の値を示しています。直後に降った雨で放射能が運ばれてきたようです。ひとつ先生のお宅も測ってみましょうか』と、宮崎が言った。二人は携帯用の測定器機をもっていたので、宇田の家のまわりをあちこち測定してみた。驚いたことに、雨戸にこびりついた泥から非常に強い放射能が出ていることが発見された。その雨戸は、原爆のとき爆風で庭に吹き飛ばされ、間もなく降って来た黒ずんだ雨に打たれて、雨水中の泥分がこびりついていたのだった。」
赤色の部分が宇田雨域
その後宇田は、黒い雨の調査の重要性について台員たちに次のように説明した。「黒い雨が強い放射能を帯びた泥を含んでいたとするなら、雨がどのように発生し、どのような地域にどれぐらい降ったのかを明らかにすることは、単に原爆に伴う気象現象の変化を解明するのに役立つばかりでなく、放射能の影響範囲と影響度を調べるためにも重要な資料となる筈だ」
当時の少数の気象台員による調査を元にした「宇田雨域」が、黒い雨被爆者の拡大の大きな阻害になった(といっても、その責任は、宇田報告にあるのではなく、頑なに黒い雨降雨地域の拡大を拒んだ国の責任が問われるべき)のも事実ですが、もし宇田の「黒い雨への疑問」がなかったら、黒い雨の被爆者を救済する道は本当に開けたのだろうか、との思いをこの本を読みながら感じました。
いのちとうとし
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