ベトナムの歴史(その19) 抗仏闘争-3の2
斎藤隆夫の「反軍演説」
日本軍の仏印インドシナ進駐が行われた1940年(昭和15年)の記憶に留めるべき出来事を紹介します。2月2日、民政党の代議士・斎藤隆夫が行った「支那事変処理に関する質問演説」です。
(演説する斎藤隆夫、1940年 「長州新聞」より)
少し長くなりますが、以下、斎藤隆夫著『回顧70年』(中公文庫)から紹介します。
「一体支那事変はどうなるものであるか、いつ済むのであるか、いつまで続くものであるか、政府は支那事変を処理すると声明しているが如何にこれを処理せんとするのであるか。国民は聴かんと欲して聴くことが出来ず、この議会を通じて聴くことが出来得ると期待しない者は恐らく一人もないであろうと思う」
「そこでまず第一に我々が支那事変の処理を考うるに当たりましては、寸時も忘れてならぬものがあるのであります。それは何であるか、他のことではない。この事変を遂行するに当たりまして、過去二年有半の長きに亘って我が国家国民が払いたる所の絶大なる犠牲であるのであります。即ちこの間におきまして我が国民が払いたる所の犠牲、即ち遠くは海を越えてかの地に転戦する所の百万、二百万の将兵諸士を初めとして、近くはこれを後援する所の国民か払いたる生命、自由、財産その他一切の犠牲は、この壇上におきまして如何なる人の口舌をもってするも、その万分の一をも尽くすことは出来ないのであります。」(拍手)
さらに斎藤は戦時下の国民に忍耐を強いながら、戦時経済の波に乗って莫大な利益を得ている者がいると告発します。
「例えば戦争に対する所の国民の犠牲であります。いずれの時にあたりましても戦時に当たって国民の犠牲は、決して公平なるものではないのであります。即ち一方においては戦場において生命を犠牲に供する、或いは戦傷を負う、しからざるまでも悪戦苦闘してあらゆる苦艱に耐える百万、二百万の軍隊がある。またたとえ戦場の外におりましても、戦時経済の打撃を受けて、これまでの職業を失って社会の裏面に蹴落とされる者もどれだけあるか分からない。しかるに一方を見まするというと、この戦時経済の波に乗って所謂殷賑(いんしん)産業なるものが勃興する。或いは「インフレーション」の影響を受けて一攫千金はおろか、実に莫大なる暴利を獲得して、目に余る所の生活状態を曝け出す者もどれだけあるか分からない。(拍手) 戦時に当たってはやむを得ないことではありますけれども、政府の局にある者は出来得る限りこの不公平を調節せねばならぬのであります。」
にもかかわらず、政府は国民に求めるだけで責任を果たさないと追及の手を緩めません。
「しかるにこの不公平なる所の事実を前におきながら、国民に向かって精神運動をやる。国民に向かって緊張せよ、忍耐せよと迫る。国民は緊張するに相違ない。忍耐するに相違ない。しかしながら国民に向かって犠牲を要求するばかりが政府の能事ではない。(拍手) これと同時に政府自身においても真剣になり、真面目になって、もって国事に当たらねばならぬのではありませぬか。」
この演説が原因で一ヶ月後の3月7日、斎藤隆夫は衆議院議員を除名されます。
下はその時に詠った漢詩です。
吾言即是万人声 (吾が言は即ち是れ万人の声) 褒貶毀誉委世評 (褒貶毀誉は世評に委す) 請看百年青史上 (請う百年の青史の上に看る事を) 正邪曲直自分明 (正邪曲直自ずから分明) |
この詩は地方政治に身を置く者として働かせていただいた20年間、〔こうありたい〕と目標にしてきた言葉です。年が明けると斎藤隆夫がこの演説をした歳と同じ71歳を迎えます。この演説から80年余経た今日の世情を見るにつけ、当時と重なって見えるのは私一人でしょうか。
あらためて心に刻まなければと思っています。
次号で「200万人餓死」をはじめ、日本軍進駐下のベトナムについて報告します。
(2022年12月23日、あかたつ)
【編集者】今日は、遊川さんの「12月のブルベリー農園その3」の予定でしたが、遊川さんに不測の事態が起こり、掲載が困難となりましたので、24日に予定していたあかたつさんの原稿を掲載しました。「12月のブルベリー農園その3」は、後日掲載します。
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