「核と人類は共存できない」か「核と人間は共存できない」かーその4
ところで、「核と人類は共存できない」ということばが、原水禁世界大会の中で森瀧先生のことばとして使われたことはないのかと「原水禁世界大会報告集」を調べてみました。残念ながら大会報告集で手元にある(図書館も所蔵していない)のは、「被爆31周年」の次は「被爆41周年」以降のものしかありませんので、その範囲で調べました。その結果、1986年8月9日に開かれた「被爆41周年原水禁世界大会」の森瀧先生の「閉会あいさつ」の中に次の文章があるのを見つけました。
「『本大会』を通じて核と人類は共存できないという共通認識を確認することができました。共存できないということは核が人類を否定するか人類が核を否定するかいずれかであるということであります。私たちは、核を絶対に否定することによって生き残らなければなりません。私たちは核絶対否定の道によって人類の生存を確保することに深い自信をいだくようになりました。」
「核と人類は共存できない」のことばにまつわる調査で、いまのところ以上のようなことを知ることができました。
確かに被爆30周年原水爆禁止世界大会の基調報告では、「核と人間は共存できない」と「人間」ということばで訴えられています。残念ですが、なぜ森瀧先生が、この基調報告の中で「人類」ではなく「人間」ということばを使われたのかを今となっては知るすべはありません。
しかしはっきりしたことは、森瀧先生自身が、「被爆30周年原水爆禁止世界大会の基調報告」を後に引用される際、「人間」となっていた部分を「人類」ということばに書き替えられたということです。
今回調べて(といっても充分なものではありませんが)いえることは、全体の森滝先生の思想として「人類」という考え方が、その中心にあったといってもよいと思います。
今回は「核と人類は共存できない」という理念について検証しましたが、森瀧先生がよく言われていたのが「人類は生きねばならぬ」ということばです。「核絶対否定」と共によく色紙などにも揮毫された言葉です。ここでも「人類」となっています。
このことからも森瀧先生の念頭には、「人類」という考え方があったのではないでしょうか。ですから森瀧先生の晩年身近にいたものの一人として、私はやはり森瀧先生の意思は「核と人類は共存できない」であり、いまはこの言葉で伝えるべきだと結論付けたいと思います。
ところで、今回調べていて奇妙なことに気がつきました。
今回紹介した「核絶対否定への歩み」(社会新報連載記事)から引用した部分のすぐ前にはこう書かれた一行があります。「しょせん、核は軍事利用であれ平和利用であれ、地球上の人間の生存を否定するものである、と断ぜざるをえないのです。」ここでは「人間」ということばが使われています。豊永先生に「人間ではないか」と指摘された広島大学の先生は、この部分を言われていることが、後でわかりました。
ところが、このシリーズの第1回で紹介した「被爆30周年原水禁世界大会の基調演説」では、この一行は「所詮核は軍事利用であれ平和利用であれ、地球上の人類の生存を否定するものである、と断ぜざるを得ないのです。」と「人類」ということばになっています。なぜだろうと、気になるのですが、これも今では解明することができません。
今回は、豊永さんからの質問で「『核と人類は共存できない』か『核と人間は共存できない』か」について書くことになり、改めて勉強することができました。
今度は「核と人類は共存できない」「核絶対否定」に至る道を改めて考察してみたいと思います。
いのちとうとし
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