憲法98条「最高法規」を読み直す ――『数学書として憲法を読む』の補足です――
憲法98条「最高法規」を読み直す
――『数学書として憲法を読む』の補足です――
三年前、『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論――』という変った名前の本を法政大学出版局から上梓しました。時間的にも限りがあり、憲法全ての条文を詳細に検証することはできませんでしたので、その後も条文毎に少しずつ読み直す作業を続けています。
今回から、98条の「最高法規」についての「発見」を報告しておきましょう。
まず、お浚いです。『数学書として憲法を読む』では、憲法をあたかも数学の公理のように考えた上で、そこからどのような結論が論理的に帰結されるのかを考えたのですが、その読み方そのものについて、九つのルールを設定しました。語呂の良さも考えて、「九大律」と呼びました。再度、掲げておきましょう。
①[正文律] 対象とする日本国憲法の正文は日本語とする。
②[素読律] 書かれていることを字義通り素直に読む。これがすべての出発点である。どこで何が定義、あるいは規定されているのか、定義・規定の内容はもちろんだが、その順序に意味のある場合にはそれも尊重する。
③[一意律] 一つの単語、フレーズは、憲法の中では同じ意味を持つと仮定する。
④[公理律] 憲法を「公理」の集合として扱う。
⑤[論理律] 憲法解釈は論理的に行う。法律やそれに準ずるものは、公理からの論理的帰結であると位置付け、論理的に考えて憲法と整合性があるかどうかの判断をする。
⑥[無矛盾律] 条文間には矛盾がないという前提で読み、解釈を行う。
⑦[矛盾解消律] とは言っても現実問題として、憲法内には文言上、一見、矛盾している記述が存在する。条文間の矛盾や使われている概念間の矛盾について、出来るだけ無理のないしかも説得力のある、もちろん「論理的」で憲法の趣旨が生きるような解釈を探し、出来れば「矛盾」を解消する。最低限、「矛盾度」が低くなるように読む。
⑧[自己完結律] 憲法は、基本的には自己完結的な文書であると仮定する。つまり、書かれていないことには依存しない。立法趣旨等も条文に掲げられていないものは無視する。さらに書かれていることにはすべて意味があると仮定する。
⑨[常識律] 定義されていない言葉や概念が使われている場合は、日本語の常識で解釈する。それもできるだけ自然な解釈による。
そして本文中で特に強調したのが、99条の憲法遵守義務でした。紙数には限りがあるのですから当然なのですが、書きたいこと、伝えたいことの全てを一冊の書物に詰め込むことはかなり難しい仕事です。その結果、98条の重要性については十分に書き切れなかったことを反省しています。遅まきながら、憲法を「最高法規」として認めている98条を読み直してみましょう。まず条文です。
第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
結論部分をまとめておくと、この9つの「律」のうちの半分くらいは、98条からの論理的帰結なのです。まさにこの条文の奥深さなのですが、その出発点は、「改竄禁止律」と名付けたルールです。それは九大律の依って立つ土台といった感じのルールなのですが、説明のためには、かなりのスペースが必要ですので、次回に回します。
[2022/5/11 イライザ]
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