坪井直さんの遺志を継ぐために ―――広島・長崎講座のすすめ―――
坪井直さんの遺志を継ぐために
―――広島・長崎講座のすすめ―――
いのちとうとしさんが、24日の本ブログで報告されているように、被爆者運動のリーダーとして長年にわたって頑張ってこられた故坪井直さんのお別れの会が22日に開催されました。
いのちとうとしさんが報告の最後に書かれている言葉、「改めて遺志を受け継ぎたいと決意した坪井先生とのお別れ会でした。」は、参加者の多くが感じていたことなのではないでしょうか。
次に、「遺志を受け継ぐ」ために何をすれば良いのかを考えてみましょう。いろいろな考え方がありますが、もう少し具体的に、三つの目標として整理しておきましょう。
① 被爆の実相を伝え続ける。
② 被爆者のメッセージを伝え続ける。
③ 核兵器の廃絶を実現する。
この三つを合わせて、「被爆体験を伝える」とまとめる場合もありますが、多くの人がこちらを選んでいるようです。被爆者の場合には、御自分の被爆体験を話し、自らの体験から湧き出てきた核兵器廃絶への強い決意と、そのための活動などを大切なメッセージとして伝えることになります。
被爆者の話を直接聞く側は大きなインパクト共にメッセージを受け取るのですが、被爆者の高齢化とともに、話のできる被爆者の数は毎年減ってきています。かつては、音声だけを録音して残しておく努力がされましたし、ビデオの時代には、自らの被爆体験を話す被爆者のビデオが貴重な遺産として保管されています。
最近では、被爆体験継承者事業として、被爆者ではない人たちが、被爆者の体験を直接被爆者から聞いた上で、さらに様々な学習を積み重ね、「伝承者」として被爆体験を伝える役割を果しています。現在では100人以上の人たちが伝承者として日常的な活動を続けています。とても大切な事業であり、より多くの皆さんに参加して貰いたいと願っています。
その他にも、小説や詩、絵画や音楽、写真や映画等様々な芸術的手段を用いて被爆体験を後世に残す努力が続けられてきました。こうした努力の結果、被爆体験と被爆者のメッセージが感動とともに受け止められ核兵器廃絶への意思を生んできました。また核廃絶を実現するための多くの具体的な努力が積み重ねられてきた結果、核兵器禁止条約が成立しました。
もう一点大切なのは、広島・長崎以降、核兵器が使われてこなかったのは、被爆者の力だということです。1999年の平和宣言でも述べましたが、被爆者はこのように、核兵器の使用を阻止する「抑止力」を持っているのです。
坪井さんの遺志、多くの被爆者の遺志を実現するためには、これまでの努力を継続することは勿論ですが、それだけで十分なのでしょうか。坪井さんというリーダー亡き後の今、私たちは、やがては被爆者亡き後の世界においてどのような努力をすべきなのかを考える必要があるのではないでしょうか。
「被爆者亡き後の世界」は長く続きます。(核兵器が人類を滅ぼさないという前提ですが――) 何世紀か何十世紀という長期にわたって、被爆体験を語り継ぐということはどんなことを指しているのでしょうか。人類史を振り返って、そんなことが行われてきた実例を参考にして、提案をしておきます。
《広島・長崎講座のすすめ》
芸術的手段を使って被爆体験を伝えたり、ビデオや伝承者の力で被爆体験を未来に残したりするのは、「アナログ」的な努力です。それに加えて、「ディジタル」的な努力による伝承も取り入れるべきなのではないでしょうか。その候補の一つが、世界の大学で「広島・長崎講座」を開設することです。
このような講座の内容としては、(1)被爆の実相と、「他の誰にもこんな思いをさせてはならない」という被爆者のメッセージの意味を学術的に整理・体系化して、(2)普遍性のある学問として、世界の大学で若い世代に伝える、ということが大切です。
このような内容の大学レベルの努力が大切なのは、(A)被爆体験の「ディジタル化」によって、劣化しない伝達ができることと、(B)ホロコーストと同じレベルの理解が進むことを挙げておきましょう。
ここで「ディジタル化」で表しているのは、ダビングで劣化しない、つまり、ユークリッド幾何学のように、世代を超えて同じ内容が伝わることです。ディジタル化の他に、例えば理論化、形式化、論理化、学問化、専門化、モデル化、数値化、思想化、科学化といった言葉でも良いのですが、何世紀という時を超えて伝えるためには、その準備が必要なのです。
次に、「ホロコーストと同じレベル」の意味を説明しておきましょう。現在の世界で、「安全保障のために、我が国はナチス並みの強制収容所が必要だ」という国はありません。しかし、「安全保障のために、我が国は広島・長崎より強力な核兵器が必要」と言っている国は、核を保有している9か国もあるのです。これは、世界的に広島と長崎の体験が十分に理解されていない、一つの結果だとも考えられます。つまり、被爆の実相、被爆者のメッセージが、知的にも情緒的にもホロコーストと同じレベルで共有さていないからなのです。
このような講座を開設している大学は、国内で50を超えていますし、海外でも20以上あります。今後も、より多くの大学に参加して貰い、質的にもホロコースト学を凌駕するレベルにまで成長して欲しいものです。
[2021年12月26日 イライザ]
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