一年振りの対面講演会 ――『数学書として憲法を読む』について話しました――
一年振りの対面講演会
――『数学書として憲法を読む』について話しました――
一年振りに上京して、少人数の集まりで「講演」をしました。対面での参加者とZoomでの参加者の二本立てでした。内容は、『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (法政大学出版局) の紹介です。主なポイントについての解説をしたのですが、Zoomでの会議に慣れてきた結果、特に時間を守らなくてはならないという制約があったせいで、時間配分が上手くできました。質疑の時間を十分に取れたのが今回の成果の一つです。参加して下さった方々の中には法曹関係者も数人いらっしゃいましたので、専門家を前にして話をすることになり、ちょっと緊張しましたが、全体として伝えたいことは過不足なく伝わったような気がしています。
『数学書として憲法を読む』では、憲法をいわば数学的な存在として、つまり現実との関係は二の次に置いて、抽象的な構造を問題にしました。とは言え、憲法そのものは我が国の法律体系の「最高法規」なのですから、現実との関係を完全に無視することはできません。
今回の講演会では、この点に焦点を合わせて話をしました。一つには、1条で象徴天皇という位置付けをしている主体としての「国民の総意」は本当に存在するのか、という問への答を示すことでした。答は、憲法内の存在としては「国民の総意」は存在します。これを「抽象的」国民の総意と呼びましょう。対して、現実の世界においての「国民が一人残さず同じ意見を持っている」という意味での「国民の総意」は存在しません。こちらを「現実としての」国民の総意と呼びましょう。
憲法では、抽象的な存在としての「国民の総意」の力によって、天皇とはどのような存在なのかを規定しています。99条の憲法遵守義務も、その「抽象的」かつ絶対的な意味のある「国民の総意」という根拠がその力の源です。従って、「国民の総意」は単に「抽象的」な存在というだけでなく、現実の場にも影響を与えているのです。ですから、「抽象的」な存在としての「国民の総意」と、「現実としての」「国民の総意」の間の関係を整理しておかなくてはなりません。
ここまでの説明を読んで、「十分に納得できた」と感じた方はおそらく少数だと思います。以下、もう少し丁寧に分り易く説明をして行きます。以下、その大筋です。
まず、「国民の総意」という絶対的な意味を持つ力は、憲法内では「実体」のある存在です。それは、憲法の一番初めに掲げられている「上諭」が保障しています。その上諭とは次の文を指します。
朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十一月三日
つまり、明治憲法下では「絶対的存在」であった昭和天皇が、上諭の中で「国民の総意」があることを認めその「総意」に従って新しい憲法ができたと言っているのですから、昭和天皇の絶対性の帰結として「国民の総意」が存在するのです。
この「国民の総意」が憲法第一条で、天皇という存在を規定しています。これはいわば職務規定なのですが、特別な存在として第一条でその仕事について規定されている、同時に人間として厳然たる姿で実在している天皇は「日本国民」であるかどうかも憲法によって決められなくてはなりません。
答は、天皇は立派な日本国民です。それは、憲法10条に従って作られた国籍法によって保障されています。
第10条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
国籍法の第二条の規定は次の通りです。
子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
次に、天皇が日本国民であることの証明です。
(1) 上皇・上皇后ともに国籍を持つか、二人とも持たないかのどちらかである。
(2) 持つ場合には第一項によって、そうでない場合は第三項によって、上皇は日本国民である。
(3) となると、第一項によって、現天皇は日本国民である。
その結果、日本国民としての天皇は、国民に与えられている権利を享受し、また国民に課されている義務を果さなくてはなりません。義務の中でも、唯一、明示的に「義務」であることが強調されているのが99条の憲法遵守義務です。では天皇が憲法を遵守するとはどのような具体的事柄を指すのでしょうか。ちょっと難しくなりますので、次回で改めて考えたいと思います。
東京でのホテルは飯田橋にあったのですが、ロビーにはハロウィーンの飾り付けが鎮座していました。その写真を御覧下さい。
[21/10/26 イライザ]
« エネルギー基本計画が閣議決定された | トップページ | 衆議院議員総選挙 期日前投票と選挙公報 »
「ニュース」カテゴリの記事
- 加藤友三郎像(2024.09.07)
- ヒロシマとベトナム(その61) ~南シナ海をめぐる動向-5~ (2024.09.05)
- 中国新聞の二つの記事―その1(2024.09.03)
- 久しぶりの参加です。「VIGIL FOR GAZA(ビジルフォーガザ)」(2024.09.02)
- 被爆79周年原水爆禁止世界大会(2024.08.11)
「憲法」カテゴリの記事
- 9月の「3の日行動」(2024.09.06)
- ヒロシマとベトナム(その61) ~南シナ海をめぐる動向-5~ (2024.09.05)
- 平和のための広島の戦争展(2024.08.28)
- 府中地区の8月の「19日行動」(2024.08.22)
- 三原地区の8月の「19日行動」(2024.08.21)
「言葉」カテゴリの記事
- 憲法98条「最高法規」を読み直す ――『数学書として憲法を読む』の補足です―― (2022.05.11)
- 核廃絶運動のこれから (3) ―――Wish Listを作ってみよう!――― (2022.01.11)
- 核廃絶運動のこれから (2) ―――転換期を迎えているのではないか?――― (2022.01.06)
- 坪井直さんの遺志を継ぐために ―――広島・長崎講座のすすめ――― (2021.12.26)
- 「最高法規」の意味 (4) ----憲法の持つ深みと矛盾が共存しています--- (2021.12.21)
コメント