違和感のある日本語 ――「いじめ」についてはこれからも続きますが、ちょっと中休みです――
違和感のある日本語
――「いじめ」についてはこれからも続きますが、ちょっと中休みです――
「いじめ」は深刻な問題です。それは、私たち一人ひとりが社会とどう関わって行くのかという基本姿勢が問われることになるからです。だからこそ教育の現場での対応も難しいのだと思います。これまで、小山田事件を出発点にいろいろ勉強するうちに、はっきりしてきたこともありますので、もう少し時間を掛けて考えて行きたいと思っています。
今回は中休みとして、「違和感のある日本語」を取り上げます。これも奥の深い問題なのですが、むきにならずに問題提起をするのが目的です。
まず、一時は「誤用」の方が圧倒的に多かった言葉で、どのような理由かは分りませんが、ほとんど淘汰されてしまっていたことで「ホッと」していたのに、最近になって復活してきたものがあります。「かわす」です。漢字では「躱す」ですが、「ひらりと身を躱すやいなや、一散に陣地へ逃げこもうとした」のように、例えば飛んできた矢から身を守るために体を反らす、という行為を表す言葉です。
それが、マラソンや駅伝の実況では、前を行くランナーを「追い抜く」「追い越す」という意味に使われていました。とても耳障りで、大好きなマラソンや駅伝の番組も見たくはない (と言うより「聞きたくない」が正確なのですが) くらいの思いだったのですが、昨年を振り返ると全く耳にしていないような気がしています。それがこのところ、復活してきました。問題はオリンピックでした。
だから「オリンピック反対」という結論にはなりませんが、若い人たちには、正しい意味と使い方を身に着けて貰えればこれに越したことはありません。
さらに最近、多く耳にするようになったのが、「失敗を鑑みると」といった表現です。私は、これまで「鑑みる」の前に「を」が付く、「を鑑みる」という表現を耳にしたことがほとんどありません。ですから、「に鑑みる」が正しくて、「を鑑みる」は間違いだと判断してきました。
ところが、丁寧に辞書を調べてみると、例えば集英社の『国語辞典』には、「時局を鑑みるに」という用例が載せられていますし、大修館の『名鏡国語辞典』には、「国際情勢を鑑みるに楽観は許されない」がありました。
これは、耳で聞いても違和感がありません。ちょっと不思議なのですが、秘密はどちらも「を鑑みるに」という形だということなのではないでしょうか。
対して「に鑑みる」の典型的な例は、「時局に鑑みて、贅沢は禁止する」といった文脈の中の「に鑑みて」です。この違いを文法的に解釈することで、どのような場合にどう表現すれば良いのかのルールがはっきりするのではないかと考えています。検討の結果はまた報告します。
また数詞の使い方で、「いち」「に」というべきところを「ひと」とか「ひとつ」、あるいは「ふた」とか「ふたつ」という例も増えています。分れば良いのかもしれませんが、やはり耳障りです。例えば、「一グループ」を「ひとぐるーぷ」と読むようなケースです。
最後に、かなりはっきりと分る最近の誤用例を二つ挙げておきましょう。「苦杯をなめる」と「役割を発揮する」です。「なめる」のは「苦汁」でしょう。「金メダルを噛む」のが当たり前になっている世の中では、「杯」も「なめる」で良いのかもしれません。そして「役割」は「果す」ものですね。
カタカナ表記の言葉まで視野を広げると、もっと違和感のあるものが増えるのですが、それはまたの機会に。
[21/9/11イライザ]
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