専門家による検討?
先週の金曜日(9日)、被爆者団体6団体は、広島市に対し、サッカースタジアム建設予定地から発掘された「旧陸軍輸送部隊の被爆遺構を保存・活用を求める」4項目の要望書を広島市に提出しました。中でも最も強く求めた要望は、「多角的な観点から遺構の全容を評価し、保存・活用の方向付けをする。被爆者など幅広い人々から意見を聞き、方向付けに反映させる」ことでした。しかし、新聞報道によれば、これに対する杉山市民局長の回答は、次のようなものでした。
「2015年から17年まで原爆資料館本館下で行われた発掘調査にも関わった専門職員が、今回の発掘も担っている。この職員は、『市では被爆遺構にだれよりも詳しい。その意見を踏まえて粛々と進める」とし、外部の専門家の意見を聴くつもりはないとしています。
県原水禁が6月24日に提出した「緊急要望書」でも「2、発掘された旧陸軍施設の被爆遺構について、早急に専門家の検討会を実施すること。その結論によって、保存を含めた継承方法を検討すること」と被爆者団体と同じ要望を提出したいますので、広島市の回答は、無回答と言ってよい中味です。
そんな広島市の消極的な姿勢に怒りを覚えます。
そこで紹介したいのが、「広島市国民保護計画」を策定する時に設置された「核兵器攻撃被害想定専門部会委員」です。全員で8人です。報告書に掲載された委員の名簿を紹介します。50音順になっています。
安 斎 育 郎 立命館大学国際平和ミュー ジアム館長 原子力工学
梅 林 宏 道 NPO法人ピースデポ代表核兵器問題
片 岡 勝 子 核戦争防止国際医師会議副会長・日本支部事務総長 医学
鎌 田 七 男 ㈶広島原爆被爆者援護事業団理事長 医学
坪 井 直 広島県原爆被害者団体協議会理事長 被爆体験
葉佐井 博 巳 広島大学名誉教授物理学 部会長
最 上 敏 樹 国際基督教大学教授同大学平和研究所長国際法 平和学
吉 岡 斉 九州大学大学院比較社会 文化研究院教授 科学史 科学政
座長は、被爆者でもあり、原爆放射線量の推定方式の確立に努力され、証言・継承活動を続けられた葉佐井博己先生です。余談ですが、葉佐井先生には、ドイツの「ポツダムヒロシマ・ナガサキ広場」に広島の被爆石を送る時に、大変お世話になりました。
この専門部会に託された課題は「核攻撃被害想定」です。委員には、幅広い分野からそれぞれを代表する人たちが選ばれています。当然のことですが、被爆者の代表はもちろん市民運動団体の代表も加わっています。そして、この報告書をまとめるため4回の専門部会、4回のワーキング会議が開催されたことが、報告書に書かれています。非常に重要なテーマですから、慎重に検討されたことがうかがえます。
「核兵器攻撃被害想定専門部」のことを紹介したのは、最近の広島市の行政のあり様との違いが、顕著だからです。
今回のサッカースタジアム建設予定地の遺構保存だけではありません。例えば、このブログでも何度かにわたって紹介した「平和大通りのにぎわいづくり」の問題もそうです。
市民など外部意見を聴いて、より良いものをつくろうという姿勢が、今の広島市政には感じられないのです。
9日の被爆者団体の申し入れに対し、杉山局長は「戦後は生活の場となったため状態が良くなく、歴史的価値は低い。被爆の痕跡が明らかなら現物保存を考えるが、現時点ではそういうものはない」と見解を表明したと報道されています。
この見解を信用できるでしょうか。私には、出来ません。私たちや市民団体が申し入れるまで「現地の説明会」すら拒否し、保存の準備を全くせずに調査を行ってきたのですから。そういう広島市の姿勢が変わらない限り、広島の説明に納得する人は、ほとんどいないと思います。
しかも30分の面談時間のほとんどが、市側の話しだったと聞いていますから、市民の声に耳を傾ける姿勢にも問題があるように思います。
もちろん、広島市が言う「部内の専門家」の存在を否定するつもりはありません。しかし、広島市が「サッカースタジアムの建設ありき」の姿勢でいる限り、内部で進める限り、きちんとした検討がなされないのではという危惧は尽きません。
今やるべきことは、「サッカースタジアム建設」に拘束されない外部の専門家の意見を聴き、きちん評価し、それに基づいて「遺構をどうするのか」を決めるべきです。
もちろん、今回の件で、「核攻撃被害想定」という重要なテーマを検討した「核兵器攻撃被害想定専門部」と同じようなメンバーを選ぶことを求めているのではありませんが、当時の広島市の姿勢をもっと学ぶべきです。
「一度壊したら後戻りできない」被爆遺構だけに、少し時間はかかったとしても、市民の多くが納得できるように幅広く外部意見を聴いて判断するというのは、最低やるべきことです。今、広島市に求められているのは、もっと市民の声を聴こうとする姿勢です。
いのちとうとし
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