広島市国民保護計画
最近、「核兵器禁止条約」に関わる原稿を依頼され、何年かぶりに「広島市国民保護計画」を読み直しました。この「広島市国民保護計画」(以下「保護計画」)は、秋葉忠利市長時代の2008年(平成20年)3月17日に作成されたものです。その後組織改正や地域防災計画の見直しなどに伴い何度か修正されていますが、基本的な計画の変更はなされていません。
私がもう一度読み直したかったことは、「保護計画」の「第1編 総論」の「第1章 計画策定の基本姿勢」の2番目に書かれた「2 核兵器攻撃による被害想定の実施及びそれに基づく基本認識」の項です。その結論の部分を紹介します。
「国の基本指針に書かれている、爆心地周辺から直ちに離れる、避難に当たっては風下を避けるなどといったことでは対応できないと考えています。(略)この計画の策定に当たっては、本市独自に核兵器攻撃による被害の甚大さを明らかにする必要があると考え、広島市国民保護協議会(以下「市協議会」 という。)に核兵器攻撃被害想定専門部会(以下「専門部会」という。)を設置し、被爆体験や科学的知見に基づく被害想定を行いました。その結果、核兵器攻撃によってもたらされる被害を回避することは不可能であり、行政が最善の対処措置を講じることができたとしても、被害をわずかに軽減する程度の効果しか発揮し得ないことが示されました。このため、核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく、核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかないという認識の下、この計画を策定します。」
「保護計画」の冒頭の「総論」のしかも「基本姿勢」の中に書かれているのですから、当時の広島市がどれだけ「核兵器の問題」を重要視していたかがわかると思います。
この「保護計画」は、国が、2004年6月に制定された「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置 に関する法律」(以下「国民保護法」という。)に基づき、「2005年度末までに、国の行政機関及び全国の都道府県に、国民保護計画を策定する」ことを求めたことを受けて作成されたものです。
当時国は、日本が攻撃を受けた場合をいろいろと想定し、対処のための基本指針を示しているのですが、その想定の中に「核兵器による攻撃」も含まれていました。その指針としては「『爆心地周辺から直ちに離れる』『避難に当たっては、風下を避ける』」など、当然なことが述べられているだけでした。「どの程度可能なのかについては何も示されていない。さらに、核兵器攻撃を受けた時、一瞬のうちに溶け、あるいは炭になって死んでいく人たちのことについては一言も書かれていない」ことに疑問を持った広島市が独自に検証して得たのが、上記の「核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかない」という結論でした。
このことを紹介したのは、「核兵器禁止条約を批准しない」とする日本政府に対する各自治体の動きを考えるからです。政府に、各自治体が「批准」を求めることは当然のことですが、各自治体の「国民保護計画」では、核攻撃についてどう扱われているからです。広島市のように「核兵器の廃絶しかない」と、言い切っている自治体はどれだけあるでしょうか。そのような自治体があることを、残念ながら、今のところ私は知りません。
自治体のほとんどが、政府が示した対処方針に基づいて、何の(というのは言い過ぎかもしれませんが)疑問も感ずることなく、ほぼそのまま引用して作成されているのではないかと想像します。そうなる原因の一つが、広島市の保護計画の中でも指摘している(「現実問題として、核兵器の恐しさを想像できない人たちが増えています」)ように、「広島や長崎の体験をきちんと理解していない、十分に知っていない」ということにあるような気がしてなりません。
「核兵器禁止条約の批准」を求めるとき、自らの自治体の「国民保護計画」をもう一度見直し、広島市と同じように「核兵器の廃絶しかない」という当たり前の計画に変えた時に、より力を持つことになると私は考えています。
ところで、「広島市国民保護計画」を読み直す中で、策定の大きな力となった「核兵器攻撃被害想定専門部会」のことで改めて気づかされたことがあります。サッカースタジアム建設予定地で発掘された「遺構の保存」を巡る動きとの大きな違いです。明日は、このことを検証したいと思います。
いのちとうとし
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