国、広島市、広島県は上告断念を―黒い雨訴訟
原爆投下後の黒い雨にあった被爆者が、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(以下「被爆者援護法」)に基づいて「被爆者健康手帳の交付」を求めたいわゆる「黒い雨」訴訟に対し、今月14日広島高裁は「原告全面勝利」の判決を言い渡しました。
私は、地裁での公判も何度か傍聴してきましたが、高裁での2回の控訴審はすべて傍聴してきました。高裁判決も、出来れば言い渡しを直接聞きたいと傍聴を希望しましたが、コロナ禍で傍聴席が制限されたことやマスコミの傍聴も多かったりで、一般傍聴はわずか10席しかなく、抽選の結果、傍聴することはできず、裁判所正門前で判決結果を待つことになりました。
午後3時から始まった判決言い渡し。数分後に裁判所正門前に弁護団の一人が判決の趣旨を書いた幕を掲げました。「全面勝訴」です。法廷に入れなかった多くの支援者から大きな拍手がわきます。
その後の報告会や原告の声や判決の概要は、マスコミに詳しく報道されていますので、ここでは判決の中でも最も特徴的だと思うことだけ触れたいと思います。
それは、一審判決では、「すべての原告が、健康被害があるから手帳を交付すべき」としていたのに加え「内部被曝による健康被害を受ける可能性があるものであったこと、すなわち原爆の放射能による健康被害が生ずることを否定することができないものであった」人は、被爆者として認めるべきだということです。
本来、被爆者健康手帳の交付要件には、「健康被害があること」は求められていませんから、この判決は、いわば当たり前の被爆者援護法の解釈を改めて確認したものだといえます。
私は、常々「原爆被害に遭った人」は、まずその事実を認め、被爆者として認められるべきだといってきました。それは、被害者が被害者として認められるという、当たり前のことです。まず被害者として認めたうえで、その被害の状況によってどれだけ援護をするのかを決めていくべきなのです。
「黒い雨」による被爆者が、被爆者として認められ、援護されるべきだというのが今回の判決の趣旨だと私は理解しています。
問題は、この判決に対する国や広島県・市の対応です。
判決直後の報道によれば、広島市や広島県は、上告(最高裁への訴え)を断念したいという姿勢をとっています。16日には、広島市長と広島県副知事が上京し、厚労大臣に要望したと報道されていますが、国の姿勢ははっきりしません。
求められるのは、広島市、広島県の毅然とした態度です。私は、この判決を聞いて「県・市が上告する理由はない」と思っています。もともと、県も市も「黒い雨地域の拡大」と国に要望してきました。今回の判決は、この要望に正当性があるというお墨付きを裁判所が与えてくれたのですから、ここでは高裁判決を受け入れ上告しないという判断を下すのが、「黒雨地域の拡大」を国に求めてきた県・市として取るべき対応のはずです。
あえて云えば、そうすることによってのみ、国の姿勢を転換させ、「黒い雨」問題を早期に解決する道になるということです。これぐらいの強い姿勢でなければ、国の政策を変えさせることはできないということです。
被爆者にとって残された時間は、多くありません。原告は、76歳から最高齢者は97歳です。提訴から6年、84名の原告中14名が、この高裁判決を聞くことなく命を失っています。昨年7月からの控訴審中だけでも2名の原告が、亡くなられました。
もうこれ以上、被爆者を苦しめることは許されません。
国、広島市、広島県は、当たり前のこととして、控訴を断念し、黒い雨地域の被爆者にも「援護法」を適用し、救済すべきです。
いのちとうとし
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コメント
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国民を救う政策が必要ですね。
黒い雨が降ったかどうかでの線引きのようですね。
福島第一原発の爆発は、原爆に比べたらほんの小さな爆発です。
それなのに除染特別地域の飯舘村まで直線で40km以上あり除染した三島町までは125km。
黒い雨が降ったとしている北広島町の南端までは30km足らず。
もし現代であの原爆があったなら除染地域はどこまで広がるかを考えるとゾッとします。
国は科学的な知見なんて言ってますが、福島のフィールドワークを参考にすれば、被爆したと考えるのは当たり前だと思います。
被爆地の広島1区の国会議員であり次期首相を狙っているなら、国に働きかける義務があると思います。
投稿: やんじ | 2021年7月18日 (日) 08時46分
やんじさま
コメントありがとうございます。
ご指摘のとおりだと思います。
放射能被害について、もっと深刻に考えるべきだす。
また国会議員の役割、地元のためにこんな時こそ力を発揮してほしいものです。
私の経験(韓国人被爆者郭貴勲裁判の上告断念)からしても、広島1区選出の議員さんが、本気になれば上告断念は実現できます。広島選出の議員がやらなければだれがやるというのでしょうか。と歯がゆい思いです。
というばかりでなく、私にできることは何かを考え、がんばりたいと思います。
投稿: いのちとうとし | 2021年7月18日 (日) 14時40分