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2021年6月16日 (水)

全会一致は民主主義の全否定 ――広島市議会の平和推進条例案策定の「手続き」こそ問題です――

全会一致は民主主義の全否定

――広島市議会の平和推進条例案策定の「手続き」こそ問題です――

前回は、コロナとオリンピックを巡っての「専門家」に責任について考えました。今回はその続きの予定でしたが、一昨日6月14日の記事で、いのちとうとしさんが報告して下さった、「慎重審議を求める要望書」に関して、これまで取り上げられていない重要なポイントに焦点を合わせることにしました。専門家の責任は、次の機会まで延期します。

今回の要望書は市議会の「政策立案検討会議」での審議について市議会議長に提出しました。議長の判断が賢明なものになることを祈っています。

Photo_20210615225301

さて、いのちとうとしさんと私がこれまで何度にもわたって、この条例案を取り上げてきたのは、事、平和については世界から注目され、「ヒロシマ」という世界的にも平和の発信拠点である都市の条例がその名に相応しいものなのか、そして憲法の原理原則に忠実に従っているのか、という「内容」について大きな問題があるからなのでした。

これらの問題提起をこのブログの記事からお読み頂くために、リストを作っておきました。

 

2月16日 問題だらけの平和推進条例

2月17日 広島市議会議長に意見・要望書を提出

2月21日 広島市の平和推進条例は世界の期待に応える義務がある

3月11日 国内他都市の条例と比較しても問題あり

3月16日 条例案は憲法や被爆者の心も無視

4月18日 政策立案検討会議傍聴記―その1

4月19日 政策立案検討会議傍聴記―その2

6月2日 市民の声が無視された「広島市平和推進条例」(案)の検討

6月14日 「『広島市平和の推進に関する条例(仮称)』の慎重審議を求める要望書」を提出

 

今回は、この議会案の「内容」ではなく、これまでの検討の「手続き」が、民主主義の原則を逸脱していること、また核兵器廃絶のためにゆっくりとではあっても前進してきた世界の歴史に照らすと、この歴史を蔑ろにすることになる、という二点を指摘しておきます。

《「全会一致」は民主主義の否定》

まず、民主主義の大原則は「多数決」です。より多くの人の考えで物事を決めて行こうという原則です。念のために、100人が参加して、何かを決定することを想定して、何人が賛成すればどのような結論に至るのかを表にしてまとめておきましょう。

普通の場合の多数決決定

賛成者数

反対者数

多数決の場合の結果

100

0

賛成

99

1

賛成

9851

249

賛成

50

50

未確定

490

51100

反対

 

つまり、賛成が51人以上なら、結果は賛成で、50人の場合は、例えば議長に一票を投じて貰って決めるといった対応をしないと決まりません。賛成が49人以下の場合は、否決、つまり反対派が勝ちます。

次に、「全会一致」という決定の仕方を見てみましょう。別の言い方をすると、どの人にも「拒否権」を与えるということなのですが、しばしば見落とされている重要な点を指摘したいと思います。そのために、100人の会議で、多数決の場合と全会一致の場合、何人が賛成すると結果はどうなるのかを表にして比べてみましょう。(クリックすると表が大きくなります)

100人の会議で、多数決と「全会一致」とは何が違うのか

Photo_20210616125101

まず、ケース⑤を見て下さい。多数決でも、全会一致でも、「反対派」が多数であれば反対派の意見が通りますので、どちらの決定方法でも「反対派」、今の場合は「少数派」の権利は守られています。

対して、「賛成派」、今の場合は「多数派」の声はどう変るのでしょうか。その違いを色でて示しておきました。

Photo_20210616125201

「賛成」が51から99の場合、その「多数派」としての声は最終決定には全く反映されなくなるのです。つまり、「多数決」という民主主義の大原則が否定されることになるのです。

つまり、100人という集団の中で、多数決による決定をする場合には尊重され権利が守られる「多数派」の意思は否定され、全会一致という非常にまれな場合以外は、「反対派」の意見が全て通るのが「全会一致」の特徴なのです。

「ヒロシマ」が象徴している「平和」は、民主主義抜きには実現不可能なものです。そして仮に民主主義を否定して世界平和が実現する道があったとしても、その道を選んではならないほど重要です。平和に至る道としては民主主義しかあり得ないことを、「平和」の象徴である「ヒロシマ」として示さなくてはなりません。そのためにも、「全会一致」方式で準備された条例を通してはいけないのです。

これを逆の立場から考えることも重要です。会議の参加者一人一人が「拒否権」を持つのですから、「個人の意見がそれだけ尊重されているのだ」と強弁することも可能だからです。しかし、民主主義の決定プロセスは、それを採用せずに多数決を採用しているのです。

ただ、考え得る限りの世の中の決定事項で、「拒否権」が正当性を持つ場合もあります。それは、「多数決で人を殺してはいけない」という原則です。少し単純化してしまうと、アメリカの裁判制度では、死刑を宣告する際に陪審員全員が賛成しないといけないことになっています。非可逆的な決定、しかも何よりも重い人の命を奪うという決定をする際に、一人でも反対をする人がいれば、それは不可能になるのです。

ですから、日本の裁判員制度のように、多数決で「死刑」の判決が下せるような制度は一考の余地があると思います。しかし、このような例外を除いて、通常の決定についてはやはり「多数決」が大原則ですし、より慎重に決定しなくてはならない場合には、極端に走って「全会一致」にするのではなく、例えば日本国憲法で採用されているような「3分の2」の賛成が必要というように、少しだけハードルを高めるという方法がとられてきたのです。

市議会の「政策立案検討会議」が、仮に慎重の上にも慎重に審議をしたいと願ったのであれば、極限的な「全会一致」ではなく、「3分の2」多数決を採用するといった可能性がありました。にもかかわらず、「全会一致」という決定をしたのですから、何故、通常の「多数決」ではダメなのか、あるいは「3分の2」多数決ではダメなのかを市民の納得が行くような説明をする必要があります。

《核廃絶への道は「全会一致」否定の道》

次に指摘しておきたいのは、核廃絶を目指して前進してきた世界の運動の歴史です。今年の1月1日からシリーズでお届けしてきましたが、画期的な成果として、1996年の国際司法裁判所による勧告的意見と2017年の核兵器禁止条約の採択、そして今年の発効を挙げておきましょう。(ここをクリックして頂くと、1月1日の記事に飛びます。)

続いて1月11日

1月21日

2月1日

2月6日

2月11日

このシリーズで強調したのは、①核廃絶が進まないのは、核保有国・各依存国が「拒否権」を行使して、つまり「全会一致」という制度に頼って、核廃絶を拒否してきたからであること。②それを乗り越えて、国際司法裁判所の勧告的意見や核兵器禁止条約が実現したのは、国連総会やWHOの総会、OEWGといった多数決が生きている場を選んで、多数決の力によっての決定ができたという事実。でした。

広島市も平和市長(首長)会議の会長としてこのプロセスを先導してきたのですから、そして、世界の都市だけではなくNGOも世界の国々も注目しているのですから、自らの行動の大原則を否定するような仕方で条例を作ることは、自らの首を絞めるに等しいことを肝に銘ずるべきなのではないでしょうか。

 [2021/6/16 イライザ]

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コメント

新聞記事で、全会一致でなければ…とありました。へぇ~との、思いが、生じます。単純に、そのように、思いました。多数決で、決めますと、反対派は、強行採決だ、いうと、聞きます。広島市の、その採決方法を決めた成立過程は、どうだったのでしょうか。国連の場合は、5か国の常任理事国・・・が、あります。国連の場合は、なんとなく、わかりますが、広島市の場合は、よくわかりません。

「60sp」様

コメント有り難う御座いました。

安保理が典型的な例ですし、国際連盟もそうですが、国際的な場では「強国」の利害関係がそれ以外の「弱小国」より優先されてきました。そのためには、全会一致、つまり、拒否権が必要だったということです。

市議会という場で民意を優先させる意思があれば、当然、拒否権を否定することになるはずなのですが--。

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