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2021年4月10日 (土)

「規制の虜(とりこ)」

「規制の虜」という言葉があります。米国の経済学者が唱えた学説で、国(規制する側当局)が国民の利益を守るために行う規制が、逆に企業など「規制される側」に転換されてしまう現象を現わすものです。

まったくの素人だとは思いませんが、規制する側の知識よりも、それを所有している側の方が専門知識もあり、様ざまな経験やノウハウを持っているということで陥る現象です。分かりやすくいえば、規制される側が規制する側をバカにしているというか、甘く見られているという状況の中で起こることだと思います。お互いが癒着している状況の中では、ナアナアということで「見て見ぬふり」で済んだのでしょうが。

福島原発事故の前にはよく云われていましたが、国の原発行政が、規制する部門と、推進する部門が共存しているという中でも起こりました。

すでに亡くなられましたが、一級プラント配管技能士として20年間に亘り原発内で働いた経験を持っていた平井憲夫(ひらい のりお)さんが、「昨日まで農林行政を担当していた者が、明日から原子力を担当するようになる。こんなことがまかり通っているのですよ」と話されていたことを思いだします。

こういう国の政治構造だから、福島原発事故は起こったのだという指摘もあります。事故後に立ち上がって調査した「国会事故調査委員会」は、「事故は明らかに人災」とする報告書を提出しました。その報告書が指摘した扱いや対策は、まさに現在「行方不明」状態にあります。ただ福島原発事故後、新たに独立した立場で原子力規制行政を行う原子力規制委員会が発足しました。

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しかし最近の動きを観ていると、「規制の虜」が復活してきたと思えてならないのです。その理由は福島原発事故から10年が経過したこと、10年までは大人しくしていたというか静かにしていた「原子力ムラ」が、頭を持ち上げてきたという感じです。

その現象は、第6次エネルギー基本計画の議論の様子を観察していると分かります。40年で廃炉という原則について、「20年でも30年でも運転継続を…」、「新増設も…」といった発言が相次いでいるのです。ほんとうに国民をバカにしているとしか思えません。

極めつけは東京電力柏崎刈羽原発での、ID不正使用問題、原発に取り付けられていた地震計が故障していた問題、テロ対策用の侵入検知装置の故障問題、それを原子力規制庁・規制委員会に報告も行っていなかったことです。

5月には原子力規制委員会から「合格」が出るのではとされていた島根原発でも、中国電力の用意した地震・津波などに関する総括資料に対し、表現が曖昧だとする意見が原子力規制庁から出て、中国電力は「やり直し再提出」というお達しを受けたのです。

まだ規制される側(電力会社)に、長年培われてきた「規制の虜」体質が抜け切れていないのでしょうね。

長年電力会社を観てきている者として思うのは、この体質はそう簡単には直らないでしょうね。

改めて国会事故調査委員会が報告した、7つの提言を伝えておきたいと思います。

1)規制当局に対する国会の監視

2)政府の危機管理体制の見直し

3)被災住民に対する政府の対応

4)電気事業者の監視

5)新しい規制組織の要件

6)原子力法規制の見直し

7)独立調査委員会の活用

 

最近、再び「規制の虜」に陥るのではないかという危惧が強くなっています。

木原省治

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