自然災害の歴史から学ぶ (2) ――6・29豪雨災害――
自然災害の歴史から学ぶ (2)
――6・29豪雨災害――
自然災害の歴史を繙き、それに対してどのような対策が取られてきたのかを検証しています。前回は、明治以降に起きた地震で、死者数からどのくらいの被害があったのかを年代順に整理した表を見てみました。
その中でも関東大震災の被害の大きさに胸を突かれました。亡くなった方が10万人を超えているのですから、東日本大震災と比べると、正に桁が違うのです。そして、その内の9割が、火災によって亡くなっています。
となると、東日本大震災に関係のある事柄での「9割」が頭に浮かびます。それは、東日本大震災で亡くなった方の9割が溺死だということです。つまり、津波で亡くなっているのです。さらに亡くなった方の内、3分の2は、60歳以上の方なのです。
このように数字から数字へと連鎖を辿ることでも、自然災害の形が見えてくるように思います。連鎖を辿らなくても一つ一つの災害を客観的に把握するためには数字が役立ちます。
その中でも忘れられないのは、市長就任直後に起きた「6・29豪雨災害」です。被害の状況、そして広島市の対応は次の図を御覧下さい。
その日の午後、開会中の市議会の議場が突然雷雨の音に包まれ、人の声が聞えるようになるまでかなりの時間がたったくらい、それまでに経験したことのないような豪雨が降り始めたことを覚えています。
被害状況は、報告を受ける度に拡大し、夜には自衛隊の派遣を依頼しましたが、遅きに失したのかもしれません。30日には現地の視察もしましたし、市としての対応にも追われましたが、とにかく消防を初めてとして全職員が力を合わせて頑張ってくれました。
私個人としても、その時点では事後的な対応しかできませんでした。しかしこれほどの惨事になった原因を確かめて、それに対する「事前」の対策を取れないものかとも考えていました。
それは、次の年に実現しました。通称、「土砂災害防止法」が制定されたからです。それについては、4年後の防災の日、つまり9月1日付で市の広報誌に掲載された記事の一部をお読み下さい。
「それ以上に忘れられないのは、4年前の6月29日の、梅雨前線豪雨による災害です。死者20名、負傷者45名、全半壊家屋203戸といった甚大な被害を広島市にもたらしました。
その直後に関谷勝嗣建設大臣(当時)が視察に来てくれましたが、一日も早い災害復旧と、今後これほど大きな被害を出さないための対策をお願いしました。大臣は直ぐに手を打つことを約束してくれましたが、特に、「こんなに山ぎりぎりのところにまで家を建てることは止めるべきだ。法的な規制が必要だ。」と強く主張されたことが印象的でした。
その結果、通称では「土砂災害防止法」という画期的な法律が一年後にできました。6月29日に起きたような土砂災害を防止することを目的とする法律ですが、分り易く説明すると、危険が起こりそうな地域についての調査を行い、「警戒区域」と「特別計画区域」を指定する。特に「特別警戒区域」については、その区域内に新たに家を建てないようにしたり、既に建っている場合には移転、あるいは現在の建物の建て替えや構造補強によって、被害を最小に食い止めるというのがこの法律の内容です。
しかし、個人の責任で別の住居を探して移転したり、自宅の建て替えや構造の補強を行うとしたら、経済的負担だけでも大変です。国からの支援策という形で、解決できないものか、機会ある毎に要望を続けています。
しかし、個人でできることも多くあります。例えば、安佐南区の伴地区では住民の自主的組織である自主防災会が中心になって「防災マップ」を作りました。
内容は、危険区域の表示や、いざ災害が起きた場合、水や食料、災害復旧のための道具がどこにあるのか、避難の際に、一人では避難できない例えば一人住まいのお年寄りがどこに住んでいるか等、実際に役立つ情報が中心になっています。
このような地図は、地域を熟知したその地域の住民の皆さんでなくては作成できないものです。皆さんの協力で素晴らしい物を作って頂きましたが、それが全国的にも認められ、消防庁の災センター長表彰を受ける栄誉に輝きました。
もちろん地図だけでは十分とは言えません。市内では、各区毎に防災訓練も行っていますが、特に安佐南区では、毎年、泊り込みの防災訓練を行っています。今年は8月の30、31日に行われますが、こうした形での、市民の皆さんの日頃からの努力が、万一災害が起きたときの備えとして大切です。多くの皆さんのこれまでの努力に感謝しつつ、今後の御協力をお願い致します。」
「特別警戒区域」では、三つの措置が取られることになったのですが、それも図で見て頂いた方が分り易いと思います。
残念なのは、良い法律ができても予算措置が伴わないと実質的な効果はないということですし、「天災は忘れたころにやってくる」という寺田寅彦の言葉を裏切って、かなり頻繁に台風の被害や、2014年そして2018年と再三にわたる大きな土砂災害が起きてしまっていることです。
[2021/4/11 イライザ]
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