「明日の神話」1号原画
昨日紹介しましたが、広島現代美術館コレクション・サテライト展示「どこかで?ゲンビ NHK de ミジカにアート」の最初の展示されている作品は、岡本太郎の「明日の神話 1号原画」です。
原爆をモチーフにした巨大壁画「明日の神話」の展示場所として、広島市も誘致を希望したのですが、展示方法、保存方法などが検討され、最終的に東京渋谷の渋谷マークシティ内の京王井之頭線の渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ連絡通路が選ばれ、2008年10月から常設展示され、多くの人が目にすることが出来ます。
「明日の神話」は、大阪万博のシンボルタワー「太陽の塔」と共に、岡本太郎の代表作と言われていますが、1968年から69年にかけてメキシコで制作されたものです。その巨大壁画「明日の神話」には、何枚か下絵が描かれていますが、今回展示されている「明日の神話 1号原画」は、そのうちの一枚です。「1号原画」とあるのですから、「その最初に描かれたもの」と言えばよいのですが、簡単にそう云えないのです。
「明日の神話 1号原画」に付されたキャプションには「壁画のための原画。5枚書かれているうちの最初のものです。」と書かれています。「5枚」という数字が気になったものですから、会場にいた学芸員に訊ねてみました。「渋谷に展示された当時は、4枚の下絵が見つかっていました。その4枚の下絵は、小さなサイズから徐々に拡大していき、最終的には壁画の3分の1サイズの下絵が制作されていることがわかっています。この絵が一番小さいので最初のものと確認できたのです。」と説明を受けました。
ちなみのこの絵のサイズは「48×195cm」です。後で調べて分かったのですが、「4号原画」と言われる最後の下絵のサイズは「177×1085cm」です。この「4号原画」は、一度メキシコに渡ったようですが、日本で開催される美術展に出品することになり帰国したため、実際にメキシコでの「明日の神話」制作の下絵となったのは「3号原画」(132×728cm)だったようです。4枚もの下絵を画いたことからも岡本太郎がこの作品に込めた思いの強さが想像できます。なお現在渋谷で展示されている巨大壁画のサイズは「5.5×30m」です。この絵のサイズの単位は、メートルです。
学芸員の話には続きがありました。「当時分かっていた下絵は4枚だったのですが、その後岡本太郎のアトリエからもう一枚見つかりました。この絵は、キャンバスが白く塗りこめられていましたので、それまで気付かなかったのですが、赤外線をあてて調べたところ、その下に『明日の神話』の下絵が描かれていることがわかったのです。この絵には、『明日の神話 0号原画』のタイトルが付けられ、『2号原画』とともに富山県立近代美術館が所蔵しています。」
長く行方が分からなかった「明日の神話」がメキシコで発見され、再生され渋谷に展示されるまでの経過を詳しく紹介した「明日の神話 岡本太郎の魂」(「明日の神話」再生プロジェクト編著・2006年刊)には、4枚の下絵がすべて原色で掲載されています。それを見ると、4枚の下絵には、構図やモチーフに大きな変更が見られませんので、「1号原画」を見ることで、大壁画を想像することが出来ます。
ところで、この「明日の神話 岡本太郎の魂」では、「1号原画」(本では「下絵NO.1」となっている)は「岡本太郎記念館蔵」(岡本太郎の青山のアトリエ)となっています。その「1号原画」が現在広島現代美術館にあるのは「渋谷に大壁画の展示が決まった後、岡本太郎記念館の好意で、広島市現代美術館が寄託していただいたからです」ということでした。
ちなみに、他の2枚の原画は、「3号」は名古屋市美術館、「4号」は川崎市岡本美術館(川崎市は岡本太郎の生誕地)が所蔵しています。
昨日も書きましたが、収蔵作品はいつも展示されているわけではありませんので、この機会にぜひ「明日の神話 1号原画」を見てほしいと思います。
いのちとうとし
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NHKに観に行ってきました。
渋谷の「明日の神話」の映像を、VR(バーチャル映像)で観ることができて、係の方から丁寧に解説してもらいました。
渋谷の実物も観にいったことがありますが、拡大しながら細かな部分まで解説付きで観れるので、とても面白かったです。
21日までなので、残り期間が少なくて残念!
投稿: YOKO MORI | 2021年3月19日 (金) 00時08分