ヒロシマとベトナム(その21-2)
会社が「年末調整」をしてくれない!
毎月の賃金から天引きされた源泉徴収の過払い分を取り戻すための年末調整期限が終わり、確定申告の時期に入りましたが、先日、東広島市内の農業関係で働くベトナム人技能実習生に関する相談を受けました。その事業所にはベトナム人、カンボジア人など約30名の技能実習生が働いているとのことです。
相談内容は〔ノルマ達成のための残業や休日出勤を強いられ、年末調整も「自分でやれ」と会社がやってくれない。昨年は県外の代理店に手数料を3万円払いやってもらった。税務署に相談に行ったが「特定の事業所の年末調整については、どうこうすることができない。『税務署に相談に行きますよ』と会社にプレッシャーを掛けるとやってくれるかも知れないですよ」と言われた。広島にある技能実習機構にも相談したが聞いてくれただけだった。会社に知られると後が怖い。直接的に会社に話すのでなく、HVPFで動いて会社が年末調整をするようして貰えないか〕というものです。
ここで源泉徴収と年末調整について簡単におさらいしておきたいと思います。
会社は技能実習生の年間所得にかかる所得税を、毎月の賃金からあらかじめ差し引く源泉徴収を必ずしなければなりません。そして、一年間の賃金額が確定する年末期に、従業員から源泉徴収した額とその従業員がその年に納めなければならない所得税額を調整するのが年末調整です。
その年に納めるべき所得税額は、扶養控除や保険控除、住宅ローン控除など様々な控除によって最終的に決まります。技能実習生が源泉徴収で所得税を払い過ぎていた場合にはその差額の還付を、不足していた場合には追加徴収を、会社は12月の賃金支払いを通して行わなければなりません。(所得税法第190条)。
母国の両親への送金も「扶養控除」摘要
技能実習生の多くは月15万円前後という低賃金の大半を母国に送金しています。
繰り返しになりますが、その送金が母国にいる両親などの扶養家族の場合には扶養控除の対象になります。
下表は、ベトナム総合情報サイトVIETJOが配信した世界銀行(WB)公表のベトナム人の海外から本国への送金額を表にしたもので、ベトナム政府が統計を取り始めた1993年と直近3年間の送金額の推移です。
年 |
1993年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
送金額(us㌦) |
1億4,090万 |
138億 |
159億 |
167億 |
155億 |
備考 |
1980年代から労働者輸出政策、 15年:米移民政策の影響、93年の統計開始以降110倍 |
下表は1月28日配信のVIETJOの記事を基に作成しました。世界に居住する越僑450万人、日本の技能実習生などを含めた海外出稼ぎ労働者58万人が昨年本国に送金した金額は155億us㌦、日本円で1兆6,100億円です。そのうち出稼ぎ労働者が毎年30億us㌦~40億us㌦送金しています。
一人当たりの平均送金額は53万8千円~71万7千円、月に換算すると4万5千円~6万円になります。
|
人数 |
送金額(us㌦) |
1㌦104円換算 |
在日ベトナム人数 42万415人 (2020年6月末) 一人当たり平均送金額 53万7,931円 ~71万7,241円 |
世界100カ国の越僑 |
450万人 |
115億us㌦ ~125億us㌦ |
1兆1,940億円 ~1兆2,980億円 |
|
海外出稼ぎ労働者数 (日本の技能実習生21万人含) |
58万人 |
30億us㌦ ~40億us㌦ |
3,120億円 ~4,160億円 |
|
合計 |
508万人 |
155億us㌦ |
1兆6,100億円 |
少なからぬ技能実習生は異なる言語や文化、慣れない生活環境の下で我慢や不当な扱いを受けながらも必死で働き、日本政府に税金を払い、生活を切り詰めながら賃金の大半を家族や親族の生活費として送金しています。本来、「扶養控除」で税の還付を受ける当然の権利を持ちながら、奪われているのです。
到底、許されることではありません。とにかく、行政や外国人技能実習機構広島事務所、管理組合などの関係機関に働きかけるべく行動を開始しています。
技能実習生が法の平等のもと、当然に認められ保護されるべき尊厳と人権を持ちながら、その多くが法外に置かれていることにあらためて気づかされました。
技能実習制度そのものに大きな問題があり、抜本的な見直しが不可欠と思っていますが、何よりもまず、現にある法外に置かれているこの実態にメスを入れなければならないと思います。
次回は日本に来るまでに多額の借金を背負わざるを得ない技能実習制度の実態について見てゆきたいと思います。
(2021年2月5日、あかたつ)
<編集後記>今月から、「より幅広い内容」とするため、イライザさんに、これまでの月3回に加えて、6の付く日(6日、16日、26日)に原稿を寄せていただくことにしました。明日6日が、その第1回目となります。どうぞお楽しみにしてください。。
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