山内正之著「大久野島の歴史―三度も戦争に利用され 地図から消された島」
過日、大久野島から平和と環境を考える会代表の山内正之さんから、今月3日発行の自著「大久野島の歴史―三度も戦争に利用され 地図から消された島」が届きました。
山内さんは、夫婦で23年前から「大久野島の毒ガスの歴史を伝える活動」を続けておられます。
この本には、「謹呈」と書かれた山内さんの手紙が添えられていました。この本の出版への思いが綴られていますので、少し長くなりますが、引用します。
「何時も、お世話になっております。この度、明治から今日にいたる大久野島の歴史を紹介した『大久野島の歴史』を出版しましたので謹呈させていただきます。ご一読いただければ幸いです。
今まで、明治から現代まで、『大久野島の歴史』として一冊にまとめた本はありませんでしたので、体験者から聞かせて頂いた証言やボランティアガイドとして23年間、大久野島に通い続けて学んだことを含めて、大久野島の歴史としてまとめました。
戦争に利用された明治から昭和の時代、第2次世界大戦後から令和の時代への大久野島の歩みを紹介します。大久野島の歴史を学ぶ入門書として読んでいただけることを期待して作成しました。
御承知のように、大久野島の防空壕跡にはまだ毒ガス弾が埋設されたままです。大久野島の毒ガス被害者も、中国の毒ガス被害者も現在もなお、毒ガス被害で苦しんでおられます。また、1996年頃にはヒ素による島内の環境汚染が明らかになるなど、大久野島は現在も、戦争の影響を残しています。大久野島の戦争の歴史はまだ、現在進行形と言えます。
『前事不忘 后事之師』、これからも頑張って、大久野島の歴史を次世代に伝えていかなければならないと思います。」
これまで「地図から消された島」など、多くの大久野島について書かれた本が出版されましたが、長い歴史をまとめたものは、この本が初めてだと思います。また本のサブタイトルにあるように「毒ガス加害・被害の歴史」の両側面から語られた本です。
山内さんは、「入門書として読んでいただければ」と書かれていますが、巻頭の写真資料や目次を読んだだけでもその内容の豊富さを知ることができます。本文中にも写真がふんだんに使われていますので、より理解が深まると思います。
特に後半(全体の半分)で、戦後の歴史が詳しく紹介されているのが特徴だと思います。添付された「資料編大久野島の毒ガス関連年表」も、1890年(明治23年)に「呉憲兵隊忠海文献事務を開始」から始まり、2017年の「4月シリア内戦でアサド政権側が毒ガス兵器を使用したとしてアメリカ軍がシリアの化学兵器貯蔵施設などをミサイルで報復攻撃」まで、丹念に調べて記載されています。また、毒ガスを製造した側、毒ガス被害を受けた中国人、それぞれ2人ずつの「毒ガスに関わる証言」も収録されていますので、ここを読むだけでも価値があると思います。
近年大久野島は、「兎と触れあうことのできる島」として多くの観光客が訪れていますが、このことにも山内さんは「まえがき」で次のように触れています。「兎に触れ合うために訪れた人たちも、この島で毒ガスを製造していた時代、この島では兎がたくさん飼育され、毒ガスの効力を確かめるための動物実験として使用され、多くの兎たちの命が奪われた悲しい歴史があることを知らない人が多い。現在の兎たちは戦争中、実験用に飼われていた兎たちの子孫ではありません。」
数年前、甥の子どもを連れて大久野島を訪れた時には、残念ながらこの話は全く頭にも浮ばなかったが思い出されます。
もう一つ、この本を手にして思い出したことがあります。原水禁世界大会で「加害の歴史に学ぼう」という企画を立案し、大久野島を訪れる「戦争とヒロシマバスツアー」を始めたことです。資料で確認できたのは被爆49周年(1994年)原水禁大会が最初ですが、企画した私の記憶では、その数年前だったように思います。数年前というのは、「戦争とヒロシマバスツアー」にはもう一つ、広島市内を回るコースがあったからです。大久野島を訪れるコースは、毎年すぐに予約でいっぱいになったのですが、市内を巡るコースは、参加者が少なく2回ほどで中止にしました。被爆49周年原水禁大会報告集には、市内のコースが記載されていませんので、数年前から始めたことは間違いありません。
大久野島を訪れるバスツアーは、竹原のみなさんの協力で今も続いています。
この本は、個人出版として発刊されたものですが、一人でも多くの人に読んでほしい本です。
いのちとうとし
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