数字の意味を正確に理解しよう ――そのためにも、「リーダー」の役割が重要です――
数字の意味を正確に理解しよう
――そのためにも、「リーダー」の役割が重要です――
前回、12月1日には、「重症者」の範囲が狭過ぎるのではないかという問題提起をしました。東京都の採用している「定義」では、コロナ以外の患者さんたちへの「しわ寄せ」の大きさ・酷さが分らないことが問題なのです。
分り易い例として、『日刊ゲンダイ』の報道による11月18日の東京都発表の「重症者」数を取り上げました。それは39人です。しかし、厚労省が規定した「重症者」を数えると196人なのです。つまり、①人工呼吸器装着②人工心肺装置(ECMO)の使用③集中治療室(ICU)などに入室のいずれかに当てはまる患者196人なのです。倍数にすると約5倍です。その差は、ICUに入っている人が含まれているかどうかなのです。
ICUの数字が重要な理由の一つは、コロナ患者がICUのベッドで治療を受けることは、その他の病気でICUベッドを必要としている人には、そのベッドが回らないことになるからです。極端なケースを思考実験として考えると、(そんなことは現実にはあり得ないのですが、状況を理解するための「仮想」的な場合を考えます)、日本中のICUベッドが全て、コロナ患者のために使われたとすると、それ以外の病気、例えばガンとか脳梗塞等の重い患者さんは、ICUでの治療が受けられなくなってしまいます。
その中には当然、助けられたであろう患者さんも含まれることになります。医師の皆さんが心配している「助けられる命を助けられない」状況です。それは当然、「医療崩壊」の重大な局面なのですが、最近の感染状況がこの方向に動いているという警鐘が鳴らされています。
皆さんお気付きのように、ここ数日間、各地で「医療崩壊」が注目されるようになりました。「医療崩壊は始まっている」(広島市医師会)、 「新型コロナウイルスによる医療崩壊は進行している」(大阪民主医療機関連合会)といった発言です。
これを、数字に置き換えて理解することが大切だとも思います。まず、日本国内のICUベッド数は、日本集中医療学会によると約7100あります。それに対して、12月19日に重症者数は598ですので、約600と考えておきましょう。
ただし、ここには東京都のICUベッドで治療を受けているコロナ患者数は入っていません。東京都の発表している重症者数は約60です。対して大阪が約150、そしてクラスターの発生で自衛隊の派遣を要請した旭川のある北海道が35という数字との比較も意味がありそうです。(これらの数字は、『東洋経済』オンラインのものを使っています)
東京の60の中には、ICUで治療を受けているコロナ患者の数は入っていませんし、この数字はネットで簡単に探せませんでしたので、『日刊ゲンダイ』の記事を元に、都の公表数の5倍を掛けたものが、ICUで治療を受けている人も含めた数字だと仮定します。
すると、東京都の「重症者数」は300、全国的な数字には、後240足す必要がありますので、大雑把に考えると、840人の患者さんがICUベッドか、それより重篤な患者さん用のベッドで治療を受けていることになります。また、新たなコロナ患者を受け入れる際、提供するための、特別に空けているベッドもあるようですが、それらも含めると、コロナ用ベッドの数は大雑把に900と考えても良さそうです。
つまり、ベッド数で考えると全ICUベッドの内、約13パーセントがコロナのために使われていることになります。
日本におけるICUベッド数も、集中治療を専門に行う医師の数も、余裕があるというのなら、これは心配する必要のない数字かもしれません。しかしながら、例えばドイツと比較すると、「人口10 万人当たりのICU は、日本が5.2 床であるのに対して、ドイツは33.9 床と、日本の6 倍以上の病床数が整備されている。(ドイツの)ICU の多さは、医療コスト高の要因として批判の対象となっていたが、今回の危機にはこれが医療崩壊の回避に寄与した。また、注目すべきは病院に勤める「集中医療専門医」の人数だ。全体数をみると、ドイツが8,328 人(2018年)に対し、日本は1,850 人(2019年)と大きく異なる(日本医師会調べ)。人口当たりでみると、日本の集中治療専門医とは、実に7倍の開きががある。」(NIRA オピニオンペーパー No. 54 | 2020 年10 月 「ドイツのコロナ対策から何を学べるか」、著者は翁百合NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所理事長)
つまり、各地で医師会や医療団体、そして個人としても医師たちが指摘しているように「医療崩壊」は起きつつある、という事実を受け止める必要が私たちにはあるということですし、その原因の一つが、これまで十分な数のICUベッドを確保して来なかった日本の医療政策にあるということなのです。
そして、「重症者数」から「ICU」を除外することで、この点が十分に伝わらないという二次的な弊害を作り出している行政の責任も問われなくてはなりません。
それに対して私たちに何ができるのかも、改めて確認しておきましょう。それは、コロナウイルスに感染しないようにすることです。そのための注意事項も手を変え品を変えて伝達されてきましたが、私たち一人一人が新たな決意でコロナに立ち向かう上でも、リーダーの果す役割が大切です。
今回はもはやそのためのスペースがありませんので、次回に回します。皆さんも健康に留意され素晴らしい新年をお迎え下さい。
[2020/12/21 イライザ]
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