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2020年12月 5日 (土)

ヒロシマとベトナム(その19)

ベトナム人技能実習生の「事件」報道に寄せられる思い

今年の3月5日にアップした「その10」で、「多発する技能実習生に関わる事件、事故」について取り上げましたが、私の住む東広島市で残念な「事件」が起きてしまいました。1112日、ベトナム人技能実習生スオン・ティ・ボットさんが乳児遺体遺棄の疑いで逮捕され、123日に乳児殺害の疑いで再逮捕されました。

報道を耳にしたとき、「えっ」、という驚きと同時に、「起きてしまった」といういたたまれない思いに襲われました。最初の報道から半月余り経ちますが、私と同じ思いに駆られた多くの方から毎日のように電話やメールをいただきます。

「スオンさん、大丈夫ですか」、「私に何かできることはないですか」という気遣いから、「私の地域にも技能実習生がいる。とてもよそ事ではなく私たちの問題と思う」、「(スアンさんは)思い悩み、苦しんでいたと思う。(自分たちに)何もできなかったのかと考える」、「自分を含めて、市や会社や地域など、まわりがなんとかできなかったのか」、「(このままだと)また同じようなことが起きる」と心配される方々・・・・。

異口同音、どなたもスオンさんを気遣い、なぜこうしたことが起きてしまったのか、防ぐことはできなかったのかという悔しさとともに、自らの問題、課題と受け止めておられます。私は一面で、“ほっ”としました。なぜなら、東広島市が2018年に実施した「市民満足度調査」で、外国籍市民が増えていることに対する市民の意識が、「外国の言葉や文化・習慣を知る良い機会になる」(36.9%)を上回り、「治安が悪化する可能性はないか不安」と答えた人が37.8%でトップを占めていたからです。

「コロナ禍」で追い込まれる技能実習生

しかし、「コロナ禍」で解雇されたり、過酷な勤務や劣悪な待遇から逃れた(失踪)技能実習生が、生活に困窮して起こしてしまった窃盗などの「事件報道」は後を絶たず、「何にしに(日本へ)来た!帰れ!」などの書き込みが増えていると言われています。

現在、技能実習期間が終了し在留期限が切れ、帰国を待っている外国籍市民が2万人余りいます。「コロナ禍」で解雇された技能実習生は3,964人(東京新聞、11月24日)と言われていますが、実数はそれよりはるかに多いと思います。

残念ながら「コロナ禍」は、まだまだ収まりそうになく、むしろ年末年始にかけて「第3波」の勢いは増しそうです。「いのち尊し」、何よりも人の生命に勝るものはなく、「go-toキャンペーン」を一時止めるなど経済活動を抑制してでも爆発的な感染拡大を抑え、行政改革の名のもとに削り取られた医療・介護・福祉分野を再生するための施設整備とヒューマンパワー(エッセンシャルワーカー)支援に全力を挙げることです。しかし、菅政権は「go-toキャンペーン」を来年6月まで延期するなど、「国民の生命よりも経済優先」に突き進んでいます。

こうした中で起きた今回の「事件」は、決して一人の技能実習生の問題ではなく、また東広島市に限った問題ではありません。

とは言え、「内外から選ばれる国際学術研究都市」を標榜し、人口の4%を越す外国籍市民を含めて「だれ一人取り残さない」という理念のもと、「SDGs未来都市」をめざしている東広島で起こったことは、真剣かつ深刻に受け止めなければならないと思っています。

 

問われる国際交流、多文化共生の真価

下の記事はお読みなった方も多いと思いますが、11月28日の『中国新聞』の『広場』に投稿された記事です。

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先ほども紹介しましたが、様々な思いを寄せてくださる方々と、「スオンさんを励まし・包む行動」を起こし、少しづつその輪が広がっています。

そうした人たちと一緒に、今回の「事件」を通して私たちが問われている課題を考え、行動を起こしてゆきたいと考えています。

誰一人、無関係な人はいません。どれほど彼らや彼女たちに私たちの日々の暮らしや地域の経済が支えられているか、意識されていないだけです。もはや、彼らや彼女たちを抜きには社会も経済も成り立たなくなっています。

朝の食卓に上るパンや惣菜からお弁当やお菓子などの食料品、広島名産の牡蠣や魚介類、大根や広島菜などの野菜。手軽に買い物ができるコンビニで対応してくれている人たち、道路建設や法面整備などインフラを支えている建設現場で働く人たち、住宅からビル建設の現場で働く人たち・・・・。

私たちのまち東広島市だけに限ったことではなく、日本国中、どこでも見られることです。しかし、私たちの意識は「外国人(よそ者)」であり、「技能実習生(出稼ぎ者)」のままです。事実は、同じ地域に暮らし・支え合う「隣人」であり、同じ職場に働く「仲間・同僚」です。

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2009年から毎年開催しているベトナムの正月、「テトを祝う会」。

私は、初めてベトナムを訪問してから30年になります。長くベトナムとの交流や国際交流活動に携わり、様々なイベントや「ベト味(ベトナム料理)教室」、「“ベトナムがく”しみん講座」などの交流を重ねてきました。

昨年度からは、地域住民とその地域に働く技能実習生や住んでいる留学生との交流を通して、最も身近な地域から継続した交流(隣人関係)が築けるきっかけ作りとしての「しみん講座」を各町に出かけて開いてきました。志和町でも今年3月22日の開催予定で、様々な方面に呼び掛け準備を進めていましたが、残念ながら「コロナ禍」で中止せざるを得ませんでした。「もし、開けていたなら・・・・」と考えてしまうのは私一人ではないと思います。

改めて技能実習制度を問い直す

今回の「事件」を通して、改めて「国際交流って何なのだ」と考えさせられています。日本籍市民と外国籍市民が集い、「楽しかった」、「交流が深まった」で留まっていては駄目ということです。〔お互いが困ったときに、本当に力になり、支え合える関係〕ができてはじめて、国際交流をやっていると言えるのだとつくづく思います。

一般社団法人 広島ベトナム平和友好協会(HVPF)の役割が問われていると痛感しています。

行政も、「多文化共生」「誰一人取り残さない」・・・と、崇高な理念のもと様々な努力がされていますが、残念ながら、今回の「事件」が起きてしまった。技能実習生の一人が起こしたのではなく、私たちや行政を含めて「起こさせてしまった」という認識が何よりも大切だと思います。

福祉にしろ、国際交流や外国籍市民に対するサポートにしろ、「待ち受けサービス(申請主義)」と横軸が通っていない「縦割り行政」がまだまだ克服できていない証でもあります。もっともっと、人とお金をかけ、アウトリーチをかけなければ、残念ながら同様な問題は再び起きてしまうと思います。

今年2月の(その9)から7月の(その14-1)まで7回、「技能実習生」を取り上げましたが、そうした自己反省に立ち、あらためてこの問題を考えて見たいと思います。

(2020年12月5日、あかたつ)

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