民意を反映しない日本の選挙制度 ――アメリカの大統領選挙より酷いのでは?――
民意を反映しない日本の選挙制度
――アメリカの大統領選挙より酷いのでは?――
11月3日に投票されたアメリカの大統領選挙は未だに最終決着には至っていません。そして、「民主主義国家」であることを標榜する我が日本国でも、今月18日、つまり2020年11月18日、最高裁判所が昨年の参議院選挙は「合憲」であるとの判決を出しました。「一票の格差が3倍だった」にもかかわらず、です。
一見、この二つの現象は無関係のように見えます。特に、日本とアメリカという国の違いがあり、アメリカの場合は大統領選挙という特別の選挙ですので、その感が強いのですが、実は、これら二つの異常事態は、全く同じ構造をもち、同じ理由で混乱を来しているのです。しかも、その両者を簡単に解決できる素晴らしい薬さえあるのです。
《選挙人と大統領選挙》
今年の選挙が未だに揉めているのは、現大統領のドナルド・トランプ候補が負けを認めずに、あることないことを主張し、法廷での争いも数多く手がけ、トランプ支持の市民たちを挑発していることが大きな原因です。同時に、大統領選挙の制度そのものに不備のあることも、同時に見て行く必要があるのです。まず、制度としてどのようなものなのかその概略です。
アメリカの大統領は、アメリカの有権者全てが投票して (少なくとも建前では) 全国でただ一人だけ選ぶことになっています。事前の予測等でも、A候補支持が52%、B候補支持が45%というような形で報道されてきていますので、全米での投票結果が集計されて、その結果で勝者が決ると思い込んでしまっても、そちらの方が自然です。
しかしながら実際には、①投票の集計は州ごとに行われます。②また各州には、「選挙人」と呼ばれる人の人数が割り当てられています。そして③集計の結果、どの候補が、何人の選挙人を獲得するのかが決められます。原則として、最終段階では、これら選挙人は、この際に割り当てられた候補に投票することに決められています。④そして最終的には、その選挙人たちが、割り当てられた候補に投票をして、その結果、過半数を獲得した候補が当選する、ということになります。
日本の制度とはずいぶん違っているという印象をお持ちの方も多いのではないかと思います。しかし、選挙そのものの構造に注目すると、日本の場合と少なくとも「相似形」ではあるのです。私は「同型」だと考えています。「違う」ように見えるのは、選挙にまつわる「用語」あるいは「術語」の違いが大きいからなのではないでしょうか。その点を御理解頂くために、大統領選挙のポイントとして示した①から④までを、日本の制度に即して言い換えてみましょう。説明を簡単にするために、かつての中選挙区制の下の衆議院選挙との比較をしてみます。
《衆議院選挙と首班指名》
まず、①ですが、日本の場合は、選挙区ごとに選挙が行われ開票・集計もその単位で行われます。これは、アメリカにおける選挙区が一つの州だと考えることに他なりません。②の選挙人の数ですが、日本の場合は選挙人とは言わず、衆議院議員と言っています。単なる言葉の違いです。そして、③ですが、日本の場合には、どのような投票をするのかが決められているのではなく、所属政党によってその行動が大方決められています。特に総理大臣を選ぶときには、自分の党の捜査いなり党首なりを選ぶのですから、これもアメリカの選挙人が誰を選ぶのかを決められているのとほぼ同じことになります。そして④ですが、これは国会における首班指名と同じことです。
日本の総理大臣の選び方と、アメリカの大統領の選び方がほぼ同じであることは御理解頂けたと思います。この制度が、アメリカにおいて今回の混乱を招いた一因だとするのなら、日本の場合は、総理大臣の指名だけでなく、各種法律の制定も同じプロセスで行われるのですから、制度的な欠陥という構造的な問題が元になって、より広い範囲で影響を及ぼしていると考えても良さそうです。
《アメリカの制度の問題点》
今回のアメリカ大統領選挙でも問題になっているのは、アメリカ全土での得票数が多いにもかかわらず、その候補が自動的には当選しないという点です。総投票数ではバイデン候補が明らかに勝っているのに、選挙人制度があるために、それとは違う結論に至る可能性があるからです。
4年前の選挙でも、ヒラリー・クリントン候補は、全体の51%の票を得ています。クリントン大統領が誕生してもおかしくはなかったはずなのですが、いわゆる「ラスト・ベルト」での票を固めたトランプ候補が選挙人の数では上回って当選しました。しかし、アメリカの大統領選挙では、このような事例は一二に止まらないのです。ウイキペディアに掲載されている、一般投票の得票率と、誰が当選したのかの比較表を見て下さい。
クリントン候補の他に、2000年の選挙で、得票率では勝ったゴア元副大統領ではなく、ジョージ・W・ブッシュ候補が当選したことが良く知られていますが、その年にも、最後には法廷で決着が付きました。
なぜこんなことが起るのかの説明も必要です。それは、選挙人を選ぶことで、有権者の意思が捩れて反映されることになるという点です。その結果、一般投票の得票数による勝敗ではなく、その逆の結論になるのです。より具体的な「思考実験」をウイキペディアの図で説明します。分り易いと思いますので、参考にして下さい。注意すべきなのは、選挙人の数は、連邦上下両院の合計議席と同数で、上院議席は各州に2人ずつ配当されているので、最小は3人ということになります。
長くなりますし、英語の説明を翻訳している時間がありません。でも、グラフと数字だけで内容は分って頂けると思います。さらにもう一つの問題は、一票の格差です。その原因の一つは、アメリカの各州とも、人口に関わらず、上院議員数が2名だということにあります。それが大きな原因になって、選挙人が何人を代表するのか、という格差が生じています。日本では「一票の格差」としてしばしば問題にされています。この点もウイキペディアのグラフで御覧下さい。
カリフォルニア州では、選挙人一人を選ぶのに、70万人という数が必要なのですが、ワイオミング州では20万人ちょっとで済みます。格差は3倍以上です。
日本の最高裁判所が、昨年の参議院選挙の一票の格差3倍を合憲だと判断したのは、「アメリカでも3倍くらいは問題視されていないのだから日本もそれに準じていれば良い」という基準でもあったからなのでしょうか。
さて日本の選挙制度の問題点ですが、これまで何度も繰り返して来ています。でも大切なことですので、再度、問題提起をしておきましょう。それは次回に。
[2020/11/24 イライザ]
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コメント
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米大統領選挙=直接選挙(実態は間接選挙)→ここまでは知っているものの、
一般有権者は正副大統領の名前を書くなり(マークorチェック)するの??
これが未だにわからない→が、今回→桑港在住の友が「B&Hに一票を投じて送った」と。
そうか、やっぱりね。
が、そのあとがまたわからない→集計後どう選挙人とやらに割りふるのか。
...③集計の結果、どの候補が、何人の選挙人を獲得するのかが決められます。
原則として、最終段階では、これら選挙人は、この際に割り当てられた候補に
投票することに決められています。...
特に、どう割り当てられるのか、がわかりません。
(捜査なり党首なり→おお時事に敏感な音声変換機能((´∀`*))
首班指名⇒主犯指名→さすがにここまでは🙅だったか((´∀`)))
投稿: 硬い心 | 2020年11月25日 (水) 09時55分
「硬い心」様
コメント有り難う御座いました。お礼と、回答が遅くなってしまい申し訳ありません。
投票が行われると、メイン州とネブラスカ州以外の州、そしてコロンビア特別区では、一般投票で勝った候補がその州の全ての選挙人を獲得します。メインとネブラスカでは、下院議員の選挙区ごとに勝ち負けを決めて、買った候補が1人の選挙人を獲得し、州全体で勝った候補が残りの2人を獲得します。
各州の選挙人の数は、連邦下院議員の数、プラス連邦上院議員の数(各州二人)です。
今回の選挙結果を示している地図ですが、小さい丸に①が入っているのがメイン州とネブラスカ州です。それぞれ一人が、トランプとバイデンに配分されていて、残りは州全体で勝った候補です。全国では赤がトランプ、青がバイデンの勝った州です。
地図のURLです。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/06/ElectoralCollege2020_with_results.svg
投稿: イライザ | 2020年11月28日 (土) 16時11分