「安野中国人受難之碑」建立10周年記念集会 ―碑と向き合うー
2010年10月23日に安芸太田町の中国電力安野発電所に「安野中国人受難者之碑」が建立されて、今年は10周年を迎えました。「広島安野・中国人被害者を追悼し歴史事実を継承する会」が主催する記念集会が、昨日午後2時から広島弁護士会館で開催されました。
第一部は、「『安野中国人受難之碑』の建立」と題し、改めてこれまでの経過を振り返りました。
最初に、元西松安野友好基金運営委員の杉原達さんが、和解成立までの取り組みを紹介します。1992年から96年にかけての実態解明の活動、並行しながら始まった西松建設との補償交渉。しかし「日中平和友好条約によって解決済み」とする西松建設の表明で話し合いは決裂。1998年から裁判闘争がスタート。そして敗訴した2007年4月の最高裁判決で「西松建設を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待される」と付言がついたことをてこにした西松建設との交渉が実り、ついに2009年10月23日和解が成立し、その事業の一環として「安野中国人受難の碑」が建立されたことが報告されました。
杉原さんは、記念碑建立の意義を「①被害者と加害者が連名で、強制連行の歴史事実と建立経過を後世に伝えるために明記したこと。②強制連行された受難者360人全員の名前を刻んだこと」だと強調されました。
次は、碑の建立に携わられた安芸太田町の(有)吉村石材店社長の吉村正則さんのお話。
碑は中国福建省の石を使ったこと、文字の間違いがないように、特に名前の文字は3cm角の中に刻むため細心の注意をしたことなど苦労された様子が話され、最後に「碑は、石材店として後世に残しても恥ずかしくない碑だと思っている」と碑への思いを強調されました。吉村さんは、毎回の碑前のつどいに参加されていますが、お話を聞くのは初めてでした。
次は、1992年の実態解明以来、活動の中心を担って来られた川原洋子さんの話です。2010年10月23日の「安野中国人受難之碑」除幕式の様子を映像で紹介し、写真と共に7人の強制連行受難者のそれぞれの生き様を、受難者・家族・遺族が「碑が果たす役割」についてどんな発言があったかの紹介がありました。
川原さんは、まとめとして「受難者・家族・遺族は記念碑をどう評価しているのか」として次の4点を紹介しました。「①事実が刻まれている。②記念碑が建立され、これで亡くなった人たちに報告できる。正義と公正と尊厳を取り戻すことができた。③記念碑は受難之碑だが和解の記念碑、友好の碑となるだろう。④悲惨な歴史を忘れてはいけない、繰り返してはいけない。」
④は日本人に対する戒めです。③加害と被害の歴史を乗り越えていけることを示したものだと言えます。ただ、この碑を見ることができたのは5人の受難者だけだったことを忘れてはなりません。
10分間の休憩をはさんで「第二部 碑が歴史を継承する」です。
最初にルポライター室田元美さんの「各地の中国人強制連行碑から見えてくるもの」と題した、ルポ報告です。「私は、中国人・朝鮮人・連合軍捕虜などが連行され、働かされた炭鉱、鉄道、ダムや発電所、飛行場など60カ所以上を訪ね、その歴史について伝える活動をしている地域の人から話をうかがってきた」と自己紹介をし、秋田県大館市の花岡や長野県下伊那郡天龍村の平岡ダムなど6カ所の中国人慰霊碑を紹介されました。
「各地の追悼碑を訪ねるまでは、碑は単に『歴史を記憶するもの』だと思っていた。それは大きな間違いだった。・・・碑がつくられるに至る、地道なとても長い行程そのものが平和への歩みだと知った。」と、碑の持つ大きな意味が強調されました。
最後に内田雅敏弁護士から「中国人強制連行碑の歴史」と題し、「安野中国人受難之碑」が果たした役割が話されました。その中で特に、この碑が「死者だけでなく受難者全員の名前を記すことによって、強制連行、強制労働の記憶を忘れさせない意味を持つものとなった」ことが強調されました。
最後の質疑で「碑に『受難者』という言葉が刻まれた経緯は?」との問いに川原さんの「中国の人たちが協議してこの言葉を決めました」との答え意を聞きながら改めて思い出したことがあります。この碑の建立のスタートとなったのは、1993年の原水禁大会に被爆者代表として参加された呂学文さん「強制連行、強制労働によって、私の人間的尊厳が奪われてしまいました。その奪われた尊厳を何としても回復したいのです」と、強い口調で言われたことです。それが、3項目要求(謝罪、記念館・記念碑建立、補償)となり、長い闘いの中で結実したのです。呂学文さんのこの言葉は、何時までも私の記憶に残っています。その呂学文さんもこの碑はもちろん、裁判の結果も見届けることはできませんでした。
いのちとうとし
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