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2020年8月11日 (火)

劣化した政治の「震源地」はどこか? (3) ――憲法違反の小選挙区制度 (2) ――

劣化した政治の「震源地」はどこか? (3)

――憲法違反の小選挙区制度 (2) ――

政治家になる人たちの質が悪ければ、その結果として政治は悪くなるでしょう。となると、政治家になった人たちがどのような経緯で政治家になったのかを知ることは大切です。そして、官僚出身者、世襲議員、さらに松下政経塾出身者という三つのグループが多くの議員や首長の「供給元」であることを確認しました。これらのグループが政治に与えている影響を客観的に把握した上で、より良い政治を創るための新たな供給源がないものなのか、あるいは作れないものなのかを考えることも重要です。また政治の劣化の原因になっているグループについては、選挙の際に投票しないといった選択をすることが有効です。

しかしながら、その選挙が有権者の意図を反映しないものであれば、私たちがどう足掻いても、望むような結果にはなりません。そして小選挙区比例代表並立制(以下、小選挙区制と略)は、民意を反映しない制度なのです。1994年に導入され、1996年の衆議院選挙からその制度による選挙が行われてきたのですが、それからほぼ20年経った、2015年の時点では、小選挙区制の弊害は広く理解されていました。しかし、それから5年経った今、危機感はどこかに消えてしまい、小選挙区制を廃止してより良い制度を導入しようといった声もほとんど聞こえなくなってしまいました。身近な所での政治の腐敗に対処するだけで時間もエネルギーも使い果たしてしまい、選挙制度にまで目が向かなくなってしまったのだと思います。

しかし、社会構造の本質を忘れては、どんな改革も不毛に終りますので、「定期的に」問題提起をしています。今回は、何故小選挙区制が駄目なのかについて、ザっとお浚いしておきましょう。

まず、小選挙区制導入の立役者として何時も挙げられるのは三人です。当時衆議院議長だった土井たか子さん、自民党総裁だった河野洋平さん、総理大臣だった細川護熙さんです。小選挙区関連法案が衆議院で可決され、参議院では否決という結果になった時、本来はこの法案は廃案になるのが憲法59条の本則です。しかし、両院協議会を開くことも許されていますので、両院協議会が開かれ、その結果は不調、つまり協議会としての結論はなく、廃案になるはずでした。その際に、土井さんが河野・細川の二人を招いて妥協案を作るよう指示し、その結果が今の小選挙区制なのです。

その一人、河野洋平さんの反省の弁が注目されました。それは、もう一人の立役者だった土井たか子衆議院議長(当時)お別れの会(2014年11月25日)での次のような言葉です。

最後にあなたに大変申しわけないことをした。おわびしなくてはならない、謝らなければならない大きな間違いをした。

 細川護煕さんと2人で最後に政治改革、選挙制度を右にするか、左にするか、決めようという会談の最中、議長公邸にあなたに呼ばれた。直接的な言葉ではなかったけれども、「ここで変なことをしてはいけない。この問題はできるだけ慎重にやらなくてはいけませんよ」と言われた。あなたは小選挙区に対して非常な警戒心を持たれていた。

 しかし、社会全体の動きはさまざまな議論をすべて飲み込んで、最終段階になだれ込んだ。私はその流れの中で小選挙区制を選択してしまった。今日の日本の政治、劣化が指摘される、あるいは信用ができるかできないかという議論まである。そうした一つの原因が小選挙区制にあるかもしれない。そう思った時に、私は議長公邸における土井さんのあの顔つき、あの言葉を忘れることができません。

当時の首相で、河野氏と共に、葬り去られるはずだった小選挙区制を復活させ、導入した細川護熙氏も導入は誤りだったことを認め、あまつさえ、自分はずっと中選挙区制度が良いと思ってきたのだ、と朝日新聞のインタビューで述べているほどです。

これだけで、小選挙区制の罪状は明らかなのですが、とは言っても、客観的な数字も掲げておきましょう。説得力のあるデータの内、得票率と議席の獲得率の乖離がやはりこの選挙制度の歪みを最も忠実に反映しています。まずはグラフを御覧下さい。

Photo_20200808180701

この4回の選挙全てにおいて、自民党は過半数には達しない得票率で、70パーセント以上の議席を占有しています。特に、2012年の選挙では、4割そこそこの得票率で8割近い議席を獲得しているのですから、自民党支持者の意思は、野党支持者の意思の約二倍の価値があることになります。

「一票の格差」が問題にされるときには、選挙区内の人口を比較して、人口の少ない選挙区と多い選挙区では、一票の価値に差があることが問題にされるのですが、それと同様に、得票率と獲得議席との乖離もやはり「一票の格差」として議論されるべきですし、違憲であるとの問題提起がなされるべきだと思います。

選挙の年

得票率   

議席獲得率

死票

死票率

2005年

48

73

3300万

49

2009年

47

74

3270万

46

2012年

43

79

3163万

53

2014年

48

76

2540万

48

これとほぼ同じ意味を持つのが死票の問題です。誰かに投票したのに、その票が生きなかったケースですが、これも、50パーセント近くですし、2012年には53パーセントです。その年の自民党の得票率は43パーセントですので、有権者が投票した通りに当選者が決っていれば、その年には、野党全体として自民党より多い議員が誕生していたのですから、政権は野党が握ることになっていたはずです。

この点については、有権者の意識も高く、小選挙区制では民意が反映されない事実を認識しています。内閣府が定期的に行っている、国の政策への「民意の反映程度」のグラフです。小選挙区制が導入されたのは、1994年、つまり平成6年ですが、それ以降、「反映されていない」が増え、「反映されている」の減っている様子がはっきりと表れています。

Photo_20200808180702

こう見てくると、小選挙区制という選挙制度の結果は国民の意思を反映していないどころか、大きく歪めていることが分ります。そして、今見てきたようなデータからは、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて」と憲法で定めている、「厳粛な信託」とは大きくかけ離れた形で権力の委託が行われていることが分ります。つまり、この制度は憲法違反です。

次回は、成立の過程でも憲法違反が行われていたこと、そしてこれらの点を問題にした訴訟でも憲法違反が行われるなど、何重もの憲法違反があって初めて続いている制度であることを検証します。

 [2020/8/11 イライザ]

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コメント

護熙氏が朝日に→読んだ気がします。
両氏とも→そこまでは吐露する→これが限度か。
両氏とも→とりあえずはリベラル→メディアは攻めにくいのか。
両氏とも→まだ認知度はあろうから「過ちては...」の
何かを期待したいところ。無理か。

頑張る保坂展人世田谷区長。
元社民党議員に思わず、うっ。
社民党がどこぞに呑み込まれるのは仕方ない。
が、せめて、日本社会党の名で消滅してくれ。

「硬い心」様

コメント有り難う御座いました。

次回に取り上げようと考えていた点に言及して下さり、流石、と唸りました。でも、誰かが頼まなくては動かないという可能性もありますね。それを考えてみましょう。

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