広島の原爆犠牲者は11万8661人―長崎市原爆被爆者対策概要
昨日、長崎市では「長崎の原爆犠牲者(死者)は、1945年末までに73,884人」とされていることを紹介しました。その資料の一つとして長崎市原爆被爆者対策概要をあげました。実はこの概要には、長崎と広島の被害の比較表が掲載されています。その比較表では、広島の「人的被災 死者数」は「118,661人」と一ケタまで明示され、出典として「人的被害 S.21.8.10 広島市調査を採用」と書かれています。長崎市の概要の全てを読み込んだわけではありませんので、他の個所で「広島の死者数」の記載があるかもしれませんが、少なくとも「原子爆弾の投下と被害状況」の項では、「広島の死者数」として「118,661人」があげられているということです。
この人数の出典元が明示されてはいますが、公式な文書に記載されている「広島の死者数」としては、あまりにも少なすぎる気がしますので、確認のため広島の原爆資料館に「資料館で明示されている死者数は、何人ですか」と問い合わせました。答えは明快です。「資料館の導入展示にある『焦土と化した広島』コーナーの『爆心地を中心に直径5キロメートルの範囲を表した広島市の地形模型に映像を投影したところでは、14万人』と表示しています。資料館のホームページでは、14万人±1万人としています」この人数は、まさに広島の原爆被害の死亡者数として「定説」となっている数字です。
この回答を得た後、さらに手元にあった「広島市原爆被爆者対策概要2020年版」(以下「広島市の概要」という)も調べてみました。「第1編 原子爆弾投下と被害状況」の「第1章 被害状況 3 社会的破壊」の項の「1 被爆時の人口及び死亡者数」に、死亡者数が記載されています。
その最初に「原爆による人的被害の状況については、現在では正確な実態は明らかにされていない」としながら、次の5つの推計数字が掲載されています。
「(1)1953年広島市の推計では、死亡者約20万人(2)1961年「広島原爆医療史」推計では、被爆人口のみで死者数はあげられていません(3)1971年「原爆戦災誌」推計でも被爆者人口のみ(4)1976年「国連への要請書」推計では、死亡者は約14万人(±1万人)と推計(5)1979年「広島・長崎の原爆災害」推計では、死者数は、1945年11月1日現在で13万人」となっています。
「広島市の概要」の特徴は、いずれも「推計」という文字が記載されていることです。ただ、原爆資料館が明示している「14万人±1万人」は、(4)の「国連への要請書」推計で記載されているだけです。「広島市の概要」では、長崎市の被害についての記載を見つけることができませんでした。
さらに気になったので、「広島県原爆被爆者対策概要」(以下「広島県の概要」という)も調べてみました。「第1章 原爆被害の実態」の「〔1〕人体への影響〔A〕急性期死亡・急性障害」に「要約」として、「広島、長崎の急性期死亡者数はそれぞれ11.4万人、7.3万人前後と推定される。」と推定値が記載されています。「広島県の概要」には、「広島市の「要」にはなかった長崎の死亡者数が掲載されています。ところで、この「11.4万人」の数字を見てびっくりです。広島市と大きな違いがあります。県の担当課に「根拠」を問い合わせました。答えは「放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE)の協力を得た『原爆放射線の人体影響 改訂第2版』の一部を転載したものです。」とのことでした。調べると確かに「第1章の脚注」にそのことが記載されています。この「原爆放射線の人体影響 改訂第2版」は、2012年3月に発刊されています。その要約版で確認すると、11,4万人には、軍人が含まれていないため、少ない死亡者数になっていると推察できます。
しかし、「広島県の概要」の数字に疑問が湧きます。「なぜ軍人を含まないのか、これでは原爆被害の実像を伝えることにはならないのではないか」ということです。さらに言えば、「この11.4万人の中には、朝鮮半島出身者の人数は含まれているのかいないのか」がはっきりしていないことです。
長崎の原爆犠牲者数の疑問からスタートしていろいろと調べてみたのですが、いくつかの疑問が残ります。
1、なぜ長崎市、県は、その後様々な検討、検証が行われているにもかかわらず、推定としながらも一ケタまでの死亡者数を明示した1950年(昭和25年)7月発表の数字を、現在も公的に使っているのか。
2、長崎市原爆被爆者対策概要に「広島市の死者数」として、「広島市の概要」では取り上げられていない人数が、掲載され続けているのだろうか。広島市は、このことをどう考えているのか。
3、広島の県と市の「原爆被爆者対策概要」で使われている死亡者数が、違う数字が掲載されているのはなぜなのか。
ということなどです。
もちろん、被害の実数を明確にできないのが原爆の被害なのだということは、理解していますが、被爆地である広島、長崎の両県市で、ここまで違いがあってよいのだろかと強く感じました。
これまでにも何度か指摘してきたことですが、こうした犠牲者数の違いが出る基本的な問題は、政府が責任を持った調査を未だ行っていないことにあります。しかし、被爆県市としても、その真相に近づける努力が必要だと改めて感じました。
こんな疑問の残る数字を示したままでよいのかということです。このままでよいのかということです。
いのちとうとし
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とても重要な問題提起を有難う御座います。それも、複数の資料に当り、関係者への取材もしての結果ですので、頭が下ります。
かつて、広島のマスコミが元気な頃であれば、これは一面トップの記事になったのではないかと思います。
コロナ対策でもそうなのですが、まずは客観的なデータがなくては何も始まりません。そのデータがどの位信頼できるのかというメタ情報とともに、研究機関あるいは行政が、調査・分析をした上で、数値を公表してくれると良いのですが---。
投稿: イライザ | 2020年8月27日 (木) 12時04分
イライザさん
コメントありがとうございます。
調べてみて、本当にびっくりです。広島の県と市でも犠牲者数が違うのですから。
広島県には、なぜ軍人などを含めないのか、広島市と連絡をとり、修正することはしないのかなどの問い合わせをしています。
長崎との違いについても、広島市と長崎市は1979年に共同で検証を進めながら、放置されたままなのか、これからもこだわって調べてみたいと思います。
アドバイスがあれば、よろしくお願いします。、
投稿: いのちとうとし | 2020年8月27日 (木) 18時36分