ヒロシマとベトナム(その13-1)―「コロナ禍」と技能実習制度
2月から5回、技能実習制度の問題点について書き進めてきました。前号(5月5日)号に、「技能実習の目的は労働ではなく、あくまでも技術移転による国際貢献とされていますが、最も大きな問題点は、この建前が大きく歪み、実態は安価な労働力確保になっていることです。」と書きましたが、このことに尽きると思います。
今日の「コロナ禍」がますますこの問題点を鮮明にするとともに、抜本的な見直しを求めています。
新型コロナウイルスの感染拡大は未だ収まらず、尊い生命を脅かし・奪い続け、社会・経済活動全般に深刻な影響をもたらしています。
技能実習生らに送る米やインスタント麺などの食料を準備するベトナム人女性=29日午後、東京都港区の日新窟(共同通信、4月9日)
日本は新たな感染者数が減少してきたことから「緊急事態宣言」が解除され、徐々に社会・経済活動が再開され始めましたが、再燃・爆発の懸念とPCR検査や抗体検査態勢、医療や介護環境などの不安材料は残ったままです。
各地で技能実習生が解雇・休業
それらの問題はとりあえず置くとして、5月29日に総務省が発表した4月の労働力調査では、パートやアルバイトなど立場の弱い子育て世代の女性を中心に非正規労働者が雇い止め(解雇)で97万人減少し、営業自粛などによる休業者が597万人に達しています。実に、700万人に近い人が、解雇や休業により生活の糧を失っていることになります。
2019年末時点、41万972人の技能実習生が日本で「研修」(就労)していますが、「コロナ禍」で研修先の仕事を失った技能実習生の状況も深刻です。5月15日に放映された「NHKおはよう日本」の「行き場失う 外国人技能実習生」では、「これまでも雇用の調整弁として低賃金で働かせている実態が一部で明らかになるなど、多くの問題点が指摘されてきました。さらにいま、新型コロナウイルスによって状況はより深刻です」と報じられていました。「多額の借金と5歳の子どもを残して来日したばかり、コロナで会社は倒産し突然解雇された。」というダオ・ティ・フエンさん。フエンさんをサポートしている「NPO法人日越ともいき支援会」には1ヶ月で2,000件以上の相談が寄せられているとのことでした。
気がかりな東広島の状況
実習期間の終了や突然の解雇などで帰国したくともできず、困難に陥っている技能実習生が多く存在することや、支援の輪が広がっていることが報道されています。
以前も報告しましたが、私の住んでいる東広島にも多くの技能実習生が働いています。昨年12月末時点、7,975人の外国籍市民のうち1,807人が技能実習生、そのうちの1,099人、61%がベトナム人です。幾つかの受入団体や受入事業所を訪ねてみましたが、「(実習)期限を迎えて帰国できない実習生は特例在留延長で働いている」とのことでした。
しかし、原材料の品切れや出荷見合わせ、感染拡大防止のための「コロナシフト(勤務)」による待機や休業はどうなっているのか、その間の処遇などの詳細については知ることができませんでした。
バイト先を失った留学生の相談も寄せられ、5kgの米袋を幾人かの留学生に届けましたが、留学生も大変です。いずれにしろ技能実習生や留学生は、何らかの問題や課題を抱えています。
大学や受入機関、事業所などが様々に支援していると思いますが、私たち(一般社団法人広島ベトナム平和友好協会)としても、実態をつかみ、支援や関係機関への働きかけをしなければと思っています。
多額の債権労働に縛られる技能実習生
さて、「コロナ禍」であらためて浮き彫りになった技能実習制度の問題です。最大の問題点は、「国際貢献」のため途上国の外国人を受け入れ「技術移転」をするという本来の目的は、もはや建前ですらなく、単なる「安価で使い勝手の良い労働力確保」に陥っていることは、繰り返し述べてきました。
技能実習制度はベトナム側では「送り出し機関」、日本側では「監理団体」が受け入れ企業と実習生(労働者)をつなぐ役目を担っています。実習生は「送り出し機関」に多額の手数料を支払い、受入事業所は「管理団体」に紹介料や毎月の管理費を支払います。
ベトナムの場合送り出し機関の手数料の上限は、3年契約の場合、ベトナム政府が定めた3,600usドル(1usドル=107.70円≒38万5千円)以下、約520時間の事前教育費(日本語教育)が590万ドン(≒2万7千円)です。
しかし、ベトナムの送り出し機関に勤める日本人のBlogによると、実際には求職者(技能実習希望者)は「募集担当者に紹介料500~1,500usドル」(5万3千円余~16万円余)、「送り出し機関に4,000~12,000usドル」(43万円~130万円)支払い、「法律で定められているが、実際には守られていない」とのことです。
先に紹介した「おはよう日本」で取り上げられたフエンさんの、「来日したばかりで、借金がたくさん残ってい
るのに、もう倒産してしまった。無一文で帰国して多額の借金を負う、不安でいっぱいです。働ける仕事が欲しいです。」という悲痛な訴えの背景がここにあるのです。
中間搾取も心配される受入れ機関
来日後は、管理団体が技能実習生の生活を支援します。全国で3,000余り、広島県には昨年末時点で146団体あります。直 接企業が受け入れる「企業単独型」は僅か3.6%で、それ以外は「団体管理型」と呼ばれる受入機関です。その団体型管理団体の運営費用は受け入れ企業からの委託料で運営されますが、委託料が高額であれば、技能実習生の賃金に転嫁されるため、実質的な中間搾取となり得ます。
送り出し機関にとって監理団体や受け入れ企業は大切な「顧客」であり、中には管理団体や受け入れ企業が本来負担すべき渡航費や宿泊費、飲食費、遊興費の負担や、キックバックを提供する送り出し機関もあると言われています。
進行する「コロナ禍」のもとで、多額の債務労働の下に縛り付けられ、加えて「転職の自由」を奪われている技能実習生が発する叫びに呼応・支援する動きが各地で起こっています。それを、技能実習制度の抜本的な見直しにつながなければならないと思います。
(6月5日、あかたつ)
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