原爆症裁判―広島高裁判決を考える
6月22日、国が原爆症認定申請を却下した処分の取り消しを求める訴訟の控訴審判決が広島高裁で言い渡されました。
コロナ対策で傍聴席数が減らされる一方、多くの傍聴希望がありましたが、私は他の支援者のご理解を得て、傍聴席でこの判決を聞くことができました。
判決の結果は、すでにマスコミで報道されているように、原告全員の訴えを認めないという1審の不当判決を見直し、11人中5人について却下の処分を取り消し、原爆症と認めました。残念ながら、他の6人については、1審判決を支持し、「原爆症」と認めませんでした。
認められた5人は、甲状腺機能低下症が4人、急性心筋梗塞が1人となっています。もちろん、全員の「却下取消」を求めていますので、判決は不当といわなければなりませんが、一部とはいえ厚生労働省が認めなかった「原爆症」を認定した事実は重く受け止められるべきです。
国はこの広島高裁判決を尊重するとともに、放射線の影響が否定できない限り認定するよう原爆症の認定要件を被爆者の立場に立った内容に見直すべきです。ましてはさらに被爆者に負担を強いるような最高裁への上告は絶対行うべきではありません。
今日は、この判決に対する私の感想を述べてみたいと思います。
今回の裁判では、三木裁判長は、判決の主文とともに控訴人一人ひとりの「却下処分の取り消し」や「請求の却下」の理由について「判決要旨」を読み上げました。かなりの早口での読み上げでしたので、充分に聞き取ることはできませんでしたが、その中で印象に残ったのは「一定程度の低線量域を含めて」と「被爆時若年であり、放射線に対する感受性が高かったといえる」という言葉が何度も出てきたことです。
後に入手した「判決要旨」では、「原爆症」と認定された一人の「原爆症認定要件該当性」に、次のように記載されています。少し長いですが引用します。
「控訴人○○は、健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる。甲状腺機能低下症と放射線被曝との関連性については、一定程度の低線量域を含めて、一般に肯定することができるところ、控訴人○○が、被爆時2歳と極めて若年であり、放射線に対する感受性が高かったこと等も併せ考慮すれば、控訴人○○の甲状腺機能低下症発症時の年齢を鑑みても、放射線に被曝したことによって甲状腺機能低下症を発症したとみるのが合理的でるということができ、放射線起因性があると認められる。(以下略)」(太字は筆者)
私の考えはこうです。「①:『一定程度』と、その基準をはっきりさせていないが、低線量被曝であっても健康に影響することを認めた。②:若年であればあるほど、放射線被曝の影響を受ける。ことを認めたのは大きな意義がある」ということです。
報告集会で、発言を求められましたので私は、こうした考えを述べた上で「福島原発事故で受けた被曝問題を考えるとき、生かしていくことのできる判決ではないか」と述べました。
しかし、報告会終了後、弁護士に訊ねると「これまでの判決でも若年の被曝影響はいっているので、特別のものではない。裁判所のいう若年とは35歳以下ですから」「全員を認めたのならわかるが」とこの点は対して評価できないとの返事が返ってきました。
私にとっては意外な答えでした。本当にそれだけ考えておけばよいのだろうかということです。「すべての原爆被爆者がきちんと救済されなければならない」というのは、当然のことです。しかし、同時に世界で様々な核被害を受け、また身近には福島原発事故を体験した放射線被害によって苦しんでいる人たちがいることも同時に考えなければならないのではないかということです。小さなことのようにも見えますが、「低線量域の被曝による健康被害」が認められ、「若年(この判決では、わざわざ『被爆時年齢2歳』ということを明確にして)での放射線被曝の影響が大きい」ことを認めたこの判決を広島・長崎以外のヒバクシャに生かすことは、私たちが絶対にやらなければならないことだと思います。
広島での「原爆症裁判」は、現在係争中のものはありませんので、これが最後となるようです。
だからこそ、私は判決言い渡しを聞きながら、二つの言葉に感受性豊かに反応したのだと思います。
いのちとうとし
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