新型コロナウイルス断想・EXTRA 2.5 ――昔話になりますが――
新型コロナウイルス断想・EXTRA 2.5
――昔話になりますが――
前回、EXTRA2で取り上げた、5月1日のオンライン閣議ですが、オンラインで閣議を開こうというアイデアは、誰の発案だったのでしょうか。安倍総理が自ら思い付いたとは考えられません。でも、今までの私の経験から、次のようなシナリオだったとすると、何となく「納得」です。
「緊急事態宣言延長を公表して、国民に自粛を続けて下さいと要請するに当って、政府がテレワークをしていないとなると、意地の悪い一部のマスコミに批判される。この際、一度だけでも、閣議を、テレビ会議システムを使って開いておいたらどうでしょう。たった5分かそこいらで、批判を躱せるのですから、良いアイデアでしょう。」と、アベシンパのマスコミ人に唆されて、殿は「良きに計らえ」と、高級官僚に丸投げ。高級官僚は、「エーッ、テレビ会議なんかは下々に任せておけば良いことで、我々はそんな技術的なことまで立ち入る必要はない。我々の仕事は天下国家を論じることなのに!」と、これも部下に押し付けて、巡り巡って、ようやく数時間かけて、「準備が間に合わない」状態で、それでもテレビ会議を始めることができた。
このような思考の背景には、千年以上続いて来た我が国の伝統と文化を守るのは自分たちであるという気概と誇りがあります。「花押」に象徴される閣議がその最たるものですが、テレビ会議などという代物がその貴重な伝統を壊すようなことは許されない、西欧文明の軽薄さに汚されることなど絶対に許せない、という結論にしてしまった可能性は大きいのです。それは、取りも直さず、コロナという現実に目を瞑り、その現実と闘う多くの人々の努力を蔑ろにしてしまうことになってしまうのですが、それは、「お上」の与り知らぬことなのです。
伝統を守ることも大切です。同時に、最新の科学的知見や、その結果としての技術を活用して命を守り市民の権利を守ることも重要なのです。でも、ギリギリのせめぎ合いになると、自分たちが特別であるという「事実」の証としての「花押」が大切になり、誰でも使えるインターネットは無視されてしまうのかもしれません。私がこんな思いに駆られてしまったのは、もう20年以上前になりますが、1999年からの個人的な経験があるからです。
当時、ある都市のトップとしての仕事を始めたのですが、最初の日に迎えに来てくれた秘書が手渡してくれたのは、何と、鉛筆書きのスケジュール表をコピーしたものでした。予定に変更があった場合には、すぐ訂正をして、そのコピーを関係者一同に配れるからという説明がありました。でも、今の時代に「鉛筆書き?」とは、と大きな衝撃を受けました。
それまで、アメリカ生活が長かったせいもあって、日常的にパソコンもe-mailも使っていましたので、二重三重の衝撃だったような気がします。調べてみると、パソコンの設置状況は、当時、各課に一台で、職員一人一人がパソコンで仕事をする物理的な条件も整ってはいませんでしたし、職場の雰囲気としてもそれまでの仕事の仕方を踏襲すれば良いという、超保守的な価値観に染められていました。
とは言え、事務の効率が上がれば、そこから生まれた時間を自分の趣味のためにあるいは家族のために使えますし、仕事だけに限っても、余裕のある市民サービスにつながることは明白でした。まずはハードの整備が必要でしたので、性能としては十分使える中古のパソコンを一人に一台配備して、すべてパソコンとインターネットで仕事ができる環境を整えました。
しかし、そこで大きな壁に阻まれました。市の行政の先導的役割を果すべき局長たちから反発が起きたのです。さらには市議会の古手議員たちもそれに同調していました。局長たち、そして議会の長老たちが「自分は死ぬまでコンピューターなど使わない」、「コンピューターに触るのも汚らわしい」、「e-mailなどは、女子職員にやらせれば良い」等、「反コンピューター」そして「反インターネット」の狼煙を上げていることが分ったのです。
そんな時に、たまたま吉村昭氏の『梅の蕾』に出会いました。陸の孤島とも言われた岩手県の田野畑村は御多分に漏れず無医村だったのですが、そこに千葉県から赴任した老医師、将基面誠さんがモデルの物語です。それは将基面夫妻の愛の物語でもあるのですが、中でも感動的なのは白血病で倒れた奥様、春代さんの村人たちとの交流です。村人とともに山野を歩いて野草を集め、また、花を増やすために梅の苗をプレゼントするなど、村人に慕われた春代夫人が村を愛し人として生きて行く姿が、将基面夫人の葬儀のシーンでクライマックスに達します。
田野畑村診療所
仮にコンピューターが非人間的な存在の象徴であったとしても、人間的な感動がそれを超える力を持っているはずです。局長たちも議員たちも最終的には市民のために働き、その目的のために一都市の幹部職員・議員になったのですから、無医村に赴任する老医師夫妻と共感できる部分があるはずだと私は信じ込んでいたのです。そんな共感を通して、嫌いなコンピューターやインターネットに心を開いて貰えるのではないかと期待していました。そのために、『梅の蕾』を読んで、感想をメールで私のアドレスに届けるよう、課題を出しました。
そしてこの宿題は、局長たちの間の団結を一層強めたようです。『梅の蕾』は秘書に読ませ、感想も秘書に書かせ、メールも局長名ではあっても秘書が送ってくるというケースがほとんどだった上に、「反コンピューター」 = 「反インターネット」 = 「反市長」という大義の下、事務事業の効率化に対する、あからさまな妨害が強まったからです。
未だiPodやiPad、そして何よりiPhoneが普及する以前でしたので、このような抵抗が可能だったのだと思います。その後、若い世代を中心に、ネットの世界が「非」ネットの世界にまで大きな影響を与え始めると、大勢には逆らえず、市の幹部職員や議員たちも徐々に順応せざるを得ない状況になって行きました。
こうした社会環境の変化も助けになって、詳しくは機会を改めて報告したいと考えていますが、約10年掛って、あらゆる面での庁内改革が成功と言える結果になりました。国のレベルで、オンライン閣議だけではなく、最終的には電子投票制度までが導入されるレベルの改革はいつになったら始まるのでしょうか。
[2020/5/14 イライザ]
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コメント
地位のある人ほど、自分では何もしないから、スマホでなくガラケーだと威張っているのを見かけます。特に男はその傾向が強いように感じます。スマホが使えないのを隠すかのようにガラケー自慢してますね。
でも、女性は柔軟で、かなりの高齢の女性もスマホを普通に使われています。子供や孫に言われて使い始めたという人もいます。男性と違い、よくわからんから未だにガラケーだと恥じるようなことを言われるのも女性ですね。
キャッシュレス化で、電子マネーをスーパーで使うのも女性が多いですし、PayPayを使うのも女性が多いようです。
そういえば、今回のコロナ災害で、活躍しているのも女性リーダーですね。
安っぽいプライドしかない男は、数年もすれば社会悪になりそうですね。
「やんじ」様
コメント有り難う御座いました。
新しい技術を拒否する理由、逆に新しいものなら何でも良いと信じ込んでいる人等、それぞれの立場はあって当然なのですが、自分の「権威」を守るため、という隠れた大目標がある場合は、用心しなくてはなりません。
そして「権威」に呑まれて「忖度」に走る人たちも。
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でも、女性は柔軟で、かなりの高齢の女性もスマホを普通に使われています。子供や孫に言われて使い始めたという人もいます。男性と違い、よくわからんから未だにガラケーだと恥じるようなことを言われるのも女性ですね。
キャッシュレス化で、電子マネーをスーパーで使うのも女性が多いですし、PayPayを使うのも女性が多いようです。
そういえば、今回のコロナ災害で、活躍しているのも女性リーダーですね。
安っぽいプライドしかない男は、数年もすれば社会悪になりそうですね。
投稿:やんじ 2020年5月15日 (金) 18時59分
コメント有り難う御座いました。
新しい技術を拒否する理由、逆に新しいものなら何でも良いと信じ込んでいる人等、それぞれの立場はあって当然なのですが、自分の「権威」を守るため、という隠れた大目標がある場合は、用心しなくてはなりません。
そして「権威」に呑まれて「忖度」に走る人たちも。
投稿:イライザ 2020年5月16日 (土) 13時32分