ヒロシマとベトナム(その12)
「外国人労働者」受け入れの変遷
前号(4月5日)で約束しました「技能実習制度と特定技能1、特定技能2という新たな在留資格による外国人労働者受け入れの問題点」について書き進めたいと思います。が、その前に、今日までの外国人労働者受け入れの変遷を大雑把に見てみたいと思います。
~戦前・戦中 強制連行・強制労働~
戦前の日本はハワイやブラジル、ペルーなど米国や中南米、東南アジアへと多くの移民を送り出した国であったことは周知のことですが、同時に「受け入れ国」でもありました。
しかし、残念ながら、平和的でも友好的なものでもなく、明治以降の富国強兵政策から太平洋戦争、そして敗戦にまで続く軍国主義の下での「受け入れ」でした。
日韓併合(1910年)や日中戦争(1937年7月~1945年8月)で困窮に陥った朝鮮半島や中国の人々が職を求め日本に渡り、国家総動員法制定(1938年)以降は、多くの朝鮮や中国の人々が強制連行で日本の炭鉱や鉱山、造船所や軍需工場などで過酷な労働に従事させられた歴史がそれです。
~コスト削減策として始まった受け入れ~
戦後まもなく迎えた高度成長期、日本は外国人労働者を受け入れないで発展しました。先進国では希なことですが、その理由として農村から都市への労働者の流入、女性や学生などのパート労働への依存、そして機械化・オートメーション化など企業合理化が挙げられます。
いずれにしても、戦後の日本では1980年代半ば頃までは外国人労働者の受け入れはありませんでした。
大きく変わったのが1985年の「プラザ合意」以降です。日本製品が世界各国に輸出され、世界最大の貿易黒字国になった日本はアメリカとの貿易摩擦が深刻化します。「プラザ合意」により円高不況に陥りますが、企業はコスト・ダウンを至上命令に労働コストの低いアジア近隣諸国に生産拠点を移す傾向を強めます。そのことから専門分野の外国人雇用と現地工場の管理者や技術者等の研修などで往来する外国人も増加しました。
今日の格差と貧困の拡大要因になっている非正規雇用の増大につながった労働者派遣法が初めて施行されたのもこの頃です。
円高不況を脱し好景気(バブル期)を迎え企業は労働力確保に苦心するようになり、推進されたのが外国人労働者の導入でした。1989年の「入管法」改正でブラジルやペルーなどの日系三世とその配偶者と子どもに対し就労に制限のない在留資格「定住者」が付与されました。
~技能実習制度の始まり~
その後のバブル崩壊と「失われた10年」と呼ばれるようになった1990年代の長期不況期、人員削減と正規社員のパート化、人材のアウトソーシングなどのコスト削減とともに外国人労働者の活用が推進されます。そうした中で在留資格の「特定活動」一つの類型として、1993年に創設されたのが技能実習制度です。そして、2010年の入管法改正で、在留資格に「技能実習」が新たに設けられ、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が改正施行され今日に至っています。
技能実習制度の問題点
~安価な労働力確保~
その基本理念は「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(技能実習法第3条第2項)とされ、厚生労働省ホームページには「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております。」と書かれています。
技能実習の目的は労働ではなく、あくまでも技術移転による国際貢献とされていますが、最も大きな問題点は、この建前が大きく歪み、実態は安価な労働力確保になっていることです。
下のグラフをご覧ください。
少し古いデータですが、国際研究協力機構(JITCO)の2016年度技能実習実施機関従業員規模別構成比です。
外国人技能実習生を受け入れている企業の従業員数は、10人未満が50.4%で最も多く、次いで10~19人が15.6%、20~49人が15.3%、100人以上の企業は9.8%です。300人以上は3.0%に過ぎません。これをみると、技能実習は国際貢献よりは、経営基盤の弱い中小零細企業が安価な労働力を確保するために利用されていることが一目瞭然です。
~帰国後、技能実習は生きている?~
毎年、厚生労働省が実施している「帰国後技能実習生ホローアップ調査」(2018年)によると、19,468人の調査対象者のうち5,257人が回答を寄せています。
上の円グラフは、同調査結果を基に作成したものです。帰国後、「雇用され仕事をしている」人が22.2%、「雇用され働くことが決まっている」人が9.1%、「起業している」人が15.0%で、計46.3%が何らかの仕事に就き、また就く予定と回答しています。一方、仕事を探していたり、何もしていない人が30%を越しています。
さらに、何らかの仕事に就き、また就く予定と回答した人46.3%のうちで、「実習と同じ仕事をしている」と答えた人は48.2%です。全回答者の22.3%が「実習と同じ仕事をしている」と答えていますが、この数値は技能制度の趣旨から見て必ずしも、生かされているとは言い難いと思います。しかも、この比率が年々低下していることも問題です。
技術移転を通した国際貢献を建前に、実質的には労働力確保策として存在する技能実習制度そのものを問い直す必要があると思います。
次号(6月5日)でも引き続き特定技能1、特定技能2の問題点を含め、この問題を取り上げます。
(2020年5月5日、あかたつ)
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