「憲法遵守義務」の重要性・その3 ――為政者たちは、憲法を内面化していたのか?――
前回は、99条の憲法遵守義務は、他の条文も繰り返し補強していることを示しました。したがって、憲法を素直に読む限り、この「義務」を真摯に受け止めなくてはならないはずだという主張をしました。
《憲法が内面化されていたとしたら?》
しかし、定説・通説ではその常識が覆されています。「憲法遵守義務」が法的義務ではなく、単に道徳的要請であるという学説しか存在していないのが現状です。そればかりではありません。死刑については、「合憲」であることを宣言した昭和23年の最高裁判決がほぼ「絶対的」と言って良い権威を持っています。この二つの事実だけから考えても、憲法を巡る我が国の状況はかなり「異常」だと言えるのではないでしょうか。
繰り返しますが、字義通りに読むと、当然、法的義務であるはずの憲法遵守義務が単なる道徳的要請になってしまっているのは、そして同じく字義通りに読むと明らかに禁止されている死刑が「合憲」であり続けるのは何故なのでしょうか。
2014年、内閣府による調査
しかも、このような判断をしてきた人たちは、控えめに表現したとしても、表立っては憲法を無視しても良い立場にはない人たちです。そのような枢要な地位にある人たちが、これほどあからさまに憲法を無視できたのは何故なのでしょうか。
この点を理解するために、正反対の状況を考えてみましょう。つまり、戦争に負けて、その結果として、当時の日本政府そして社会の中枢にいた人たちが皆、戦争の愚かさを骨の髄まで染み込むように理解していたとしましょう。さらに、新憲法には、それを元に基本的人権と主権在民そして平和主義という原則を盛り込み、その中でも、一人ひとりの人格を何より尊いものだと考える基本的人権についての感覚が、これら枢要な地位にいた人たち全ての血となり肉となっていたと仮定しましょう。言い換えると、日本の進む道を選択する立場にあった人たちの基本的価値観・世界観が新憲法に盛り込まれている価値観そのものだったと仮定してみようということなのです。
少し誇張を交えて、このような人たちがどのように新憲法を受け止めたかを考えてみると、基本的人権についての条文を読む姿勢としては、すなわち、11条、12条、13条、97条等を読む際には、これらの条文の一つ一つに頷きながら、そして家族や身近な市民を一人一人の顔を思い浮べながら、自らの命や自分が最も愛する人たちの生命そして人生と直接関わりのある文章として受け止めることになったのではないでしょうか。
そして、これらの人々の生命と権利を何よりも尊重しなくてはならない仕事を自分はしていることを確認し、責任も感じ、これらの重要性が憲法内で何度も繰り返されていることの重みを、しっかり自覚したはずです。その自覚の下に、仮に犯罪者であっても個人として尊重される、あるいは生活する権利を持つことの意味を謙虚に、そして字義通り受け止めたのではないでしょうか。その結果として、憲法では複数の条文が死刑を禁止している事実を厳粛かつ謙虚に確認することになったのではないでしょうか。
憲法の遵守義務を規定している15条についても同様です。国民すべての奉仕者でなくてはならないという15条の規定を謙虚に受け止め、そのために設けられている99条の遵守義務を文字通りに果すために直ちに法律を整備して、遵守義務違反が起きないような予防措置と、違反が起きた場合の対応の仕方を罰則も含めて準備したはずです。
しかし現実には、最高裁が死刑は合憲であるとの判決を出し、憲法遵守義務は「道徳的要請」なのです。ということは、我が国の司法関係者の間には憲法より優先される価値とか世界観があって、それに従って憲法が解釈されているという「仮定」でも設けない限り説明が付きません。それを、仮に「無謬性神話」と呼んでおきたいと思います。なぜこのような名称なのか、その実態はどのようなものなのかを時間を掛けながら説明して行きたいと思います。
[2020/3/1 イライザ]
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