ゴーン被告逃亡が投げ掛ける問題
昨年暮れの29日に、自宅から外出したままレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告に対して、法務大臣は勿論のこと、マスコミはほとんど例外なく、ゴーン氏が法を犯した「悪人」であることを繰り返し強調しています。逃亡したこと自体が違法であり、起訴された嫌疑についても、裁判前であるにもかかわらず有罪が確定しているかのような報道も、逃亡劇そのもののセンセーショナルな性格をさらに増幅しています。スパイ映画さながらの逃亡そのものについての関心も高いようですし、逃亡費用が億の単位になったであろうことについても再三再四言及されています。
法律的な側面については、それを専門とする検察や警察の今後の対応を見守るしか方法はありませんし、その過程で、経済的な犯罪の本質や日産の中で、あるいは日仏の政府まで巻き込んだ、権力闘争の本質も見えてくるのだろうと思いますが、今回はこれまでほとんど問題にされて来なかった視点からゴーン被告が提起している問題を考えたいと思います。それは、日本の司法制度が抱える本質的な問題です。
ゴーン被告が批判したのは「人質司法」と呼ばれる捜査方法ですが、法律的には一つの容疑に対して、身柄を拘束しての捜査は逮捕状による72時間プラス、その後の勾留状に基づく20日(計23日)間しか許されていません。しかし、昨年の11月、保釈保証金10億円を払って保釈されるまで、ゴーン被告は100日以上拘留されていたのです。
テレビのミステリー番組でも再々登場するように、取り調べに対して「自白」をしない場合には、このように長期に拘留されるのが日本の司法ステムの定番として知られています。これを改善しなくてはならないという声は以前からあったのですが、司法や政治の世界ではほとんど注目されずに時だけが過ぎていました。ゴーン被告の問題提起によって、世論もようやくこの点について関心を持ち、知的レベルでの議論も活発になるかもしれないと期待したのですが、残念なことに、為政者側の旧態依然とした思考パターンはこの点について全く反応しなかったのです。
日本の司法制度は、世界と比べて遅れているにもかかわらず、その事実はベールに隠されほとんどの人は日本の司法制度に欠陥のあることさえ知りません。たとえば、司法制度そして基本的人権を考えるに当って、最も重要な柱の一つは「habeas corpus」と呼ばれる権利です。日本語訳としては「人身保護令状」が標準的ですが、令状そのものも大切なのですが、その令状に盛り込まれている権利こそ、この概念の基本です。
それは、官憲に身柄を拘束された場合、裁判所に訴えて、その理由を開示させる権利であり、理由が不十分であったり、拘束に足る十分な理由がなければ身柄は解放されるという権利です。日本国憲法では、33条と34条がこの規定です。自白に追い込むために、被疑者を長期間拘束することは、この基本に反していますので、国際人道法だけでなく、憲法違反なのです。
しかし、森法相はじめ、マスコミも声を揃えて、ゴーン被告の出国が法律に反することだけしか取り上げていません。しかし、この点についての論点をハッキリさせるために、もう一つ私たちにとって、特に沖縄にとって身近な問題視の比較を行いたいと思います。それは、基地に住む米軍の兵士やその家族による犯罪の裁判権についてです。日本に滞在している米軍の兵士や家族による犯罪について、日本は裁判権を持たないというのが日米地位協定の決まりです。
日米地位協定の第17条2項には次のような規定があるのです。
合衆国の軍事裁判所および当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属ならびにそれらの家族が日本国内で侵す全ての罪について、専属的裁判権を日本国内で行使する権利を有する。
つまり、「治外法権」です。そして、このような規定ができた背景には、日本の司法制度では、アメリカ人が本国で保障されている人権が保障されていないこと、特に人身保護令が効力を持たないこと、そして弁護人が同席しないままの尋問が許されていることなどが挙げられているのです。
もしゴーン被告に対する捜査や尋問、そのための身柄拘束が国際的にも認められると日本政府が主張するのであれば、それと同じ理由で、米軍の兵士に対しての裁判権を日本側に引き渡すべきだという要求をアメリカにしなくてはなりません。逆に、日米地位協定が正しいのだと言い張るのであれば、ゴーン被告の言い分を認めて、彼の保釈条件等についての見直しをする必要が生じます。どちらも、バランスに欠けるのですが、最適な解決法があります。
これまでの日本の司法の実体である「人質司法」を認めた上で、それを抜本的に改革することです。特に、無力化されている憲法34条を復活させ、「自白」のみに依存するの本の捜査の仕方、そして司法制度を抜本的に変えるよう、主権者である私たちが強力な運動を始めることこそ、最重要な教訓なのかもしれません。
[2020/1/21 イライザ]
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