無い物ねだり
日本の政治は地に堕ちてしまった、と書いても、もう聞き飽きた言葉を繰り返すなという反応が戻って来るだけなのかもしれません。でもこの酷さを改めて羅列して、その原因を確定した上で、政治と社会全体を健全にして行かなくてはなりません。
政治の酷さを一番良く示しているのが総理大臣の発する様々な言葉です。総理大臣の国会答弁や記者会見は見るのも聞くのも苦痛です。総理大臣だけでなく、他の大臣もその代りに答弁に立つ役人の答弁も、テレビで映される勉強会での発言等々でも、日本語らしき言葉が繰り出されますが、それらの言葉には意味がありません。意味の代りに、「官僚的」という言葉が悪い意味で伝えている特徴を備えています。つまり、権力を擁護し真実を隠し、真実の追求から「言い逃れる」ための論理性を持つ詭弁なのです。そして、それでも間に合わないほどの追求に遭うと、大切なことには「ダンマリ」で通すことになるのです。これらの結果として、喋っている人たちが人間であることさえ疑うような薄っぺらな「言語紛い」の代物であることしか伝わってこないのです。
最近では、それより低次元の対応が目立ち、それさえも市民権を得ようとしています。たとえば、公職選挙法違反の疑いを賭けられた国会議員たちは、「言語紛い」の音声による「説明らしき」ものを公にすることすら拒否して、「雲隠れ」をするのが常套手段になりました。そんな国会議員を当選させるために、(総理大臣としてではない)自民党総裁は1億5千万円も使って、何のお咎めもないどころか、「違法ではない」と開き直っているのです。
こうした状態を作っているのは、日本という国家を代表する大臣や政治家、そして官僚たちですから、それらの人々の言動を、「国家の言動」と呼んでも良いはずです。そこで思い出すのが、藤原正彦著の『国家の品格』です。
現在の安倍政権ほど、「品格」に似付かわしくない存在はないと言っても過言ではないでしょう。さらに、『国家の品格』が説いている「惻隠の情」とか「もののあはれ」と最も距離のあるのが、総理大臣の言説であり、それに阿る官僚たちの姿勢でしょう。
実は、『国家の品格』には、品格を取り戻すための処方箋が示されています。それは、新渡戸稲造の『武士道』です。でも、その処方が効果的でなかったことは、現在の安倍政治の酷さで証明済みです。そもそも『武士道』を読んでその内容通りの行いをするという考え方はなかったのではないでしょうか。
では、その代りに、安倍政治を作り支えて来た人たちは何を頼りに自分たちの言動を律してきたのでしょうか。それが明治憲法であり、教育勅語や軍人勅諭等であることは、改めて指摘するまでもないでしょう。自民党の改憲草案を見れば明らかです。とは言え、我が国は法治国家です。現行の憲法が気に食わないからと言って、平気で憲法違反をしたり、憲法の精神に背くようなことはできないはずです。事実、憲法の99条には憲法遵守義務が掲げられています。改めて引用しておきましょう。
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
さらに、15条の2項では、政治家を含む公務員が全ての人のために仕事をしなくてはならない旨の規定があります。それも引用しましょう。
第15条 (略)
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
こうした規定があるにもかかわらず、最初に指摘したような酷い「言語紛い」の音声による政治が跳梁跋扈しているのは、裁判所の確定判決そして学説によって、99条が「法的義務」ではなく、「道徳的要請」であると解釈されていることが最大の原因なのではないかと思います。
本ブログでも取り上げてきましたが、『数学書として憲法を読む--前広島市長の憲法・天皇論』には、詳しい説明がありますので、是非読んでみて下さい。
[2020/2/1 イライザ]
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