「被爆動員学徒の生きた時代」-職域被爆者組織の結成の経緯
先日、いつもお世話になっている被爆者から「小畑さんという人が、近藤幸四郎さんのことについて書かれた本があるそうですが、知っていますか。本の正式なタイトルと出版社名を教えていただけませんか?」と尋ねられ、「どうされたのですか。その本ならよく知っていますよ」と答えたところ、「在外被爆者のことも書かれているようなので、購入しようと思っているのです」。「私の手元に、数冊ありますので、贈呈しますよ。」こんなやり取りがあり、久しぶりにこの本を読み返しています。
この本の正式なタイトルは「被爆動員学徒の生きた時代―広島の被爆者運動―」で、著者は小畑弘道さんで「近藤さんが残されたメモに被爆者運動関係の資料の一切を小生に託す」(本書のあとがきより)とされた人です。その小畑さんが、近藤さんが亡くなって5年後の2007年に近藤さんの一生をたどりながら、「被爆者たちがその折々にあたって当事者として邁進していくなかで直面した問題や思想として築き上げて来たものが何であったか知ろうとして」(これもあとがきより)まとめたものです。一人の被爆者が歩んできた歴史をたどりながらも、それにとどまらずむしろ被爆者運動の歴史をたどったともいえる中味になっています。私が何よりもこの本に惹かれるのは、被爆者運動の歴史を、近藤さんが常々言い続けていた視点からたどっているからです。
右が近藤幸四郎さん、左は盟友の宮崎安男さん
この本では、原水禁運動について触れられている様々な書籍の中で全くといってよいほど触れられることのない被爆者運動について書かれています。それは本書の「Ⅳ 広島の運動から」の章の「一、職域に被爆者組織」です。近藤さんが当時働いていた電電公社(現在のNTT) の職場に、1968年10月結成された「全電通被爆者連絡協議会」を作るまでの経緯が書かれています。被爆者組織といえば、それまで地域組織のみでしたが、この当時相次いで職域の被爆者組織が結成されるようになりました。結成されるまでには、労組被爆者ごとに様々な経緯がありますが、全電通の職場にも特別の事情がありました。そのことを私も何度も近藤さんに聞いたことがありますが、ここではちょっと長くなりますが本の中から引用します。「1968年、全電通中国通信局分会執行委員だった(筆者注:私の労働運動もこの中国通信局分会執行委員がスタート)近藤は、夏期手当の差別問題で通信局側と交渉を続けていて、ある女性が異常に手当てが低いのに疑問を抱く。局側の答えは『上司にも黙ってよく休んでいる』。そこで近藤は本人にこっそり会い事情を聞いてみる。原爆に遭い肉親を失い、彼女自身、肝臓の機能障害や無力症候群で広島原爆病院に入退院を繰り返しており、被爆者であることが知れたら首になる、と深刻に悩んでいた。これは近藤にはショックなできごとであった。労働組合は毎年、8月6日を中心とした原水禁運動に参加し一定の役割を担っていたが、考えてみればその多くは、会場設営や警備、署名やカンパ活動などの『動員』にほかならず、最も身近な被爆者のことを置き去りにしていた。この女性のような悩みを抱えた被爆者はまだほかにもいるに違いない。何かしなければと思い立つ。」ここからが近藤さんの真骨頂。「結成準備会」を立ち上げ、最初に行ったのが被爆者がどれだけいるのかの調査。・・・しかし残念なことに、今こうした歴史が語られることはほとんどありません。
近藤幸四郎さんの運動の歩みには「国立原爆追悼祈念館」のことなど語らなければならないことが多すぎるほどありますが、近藤さんに教えられてことの中でも、私が学ばされたできないできごとの一つとなっています。そしてことは、私の原水禁運動の原点の一つでもあります。
いのちとうとし
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