日本が壊れて行く? (4) ――ポイント凍結事故と車内の閉じ込め10時間――
日本が壊れて行く? (4)
――ポイント凍結事故と車内の閉じ込め10時間――
シリーズでお届けしている「異次元」の違和感についての、次のトピックです。簡単にお浚いをしておくと、第二回では護衛艦と巡視艇の事故についての疑問、そして第三回ではなぜ巡視艇が岸に近付かなくてはならなかったのかについての疑問を取り上げました。
今回は同じく移動手段ですが、鉄道です。
10年に一度と言われる寒波の襲来で、1月24日から26日にかけて全国各地で大雪になりました。そんな中、1月24日の夜から25日朝にかけ、JR琵琶湖線・京都線(東海道本線)の山科―高槻間で15本の列車が駅間で立ち往生し、約7000人が最長9時間50分もの間、車内に閉じ込められるトラブルが発生しました。
このトラブルについての分り易いネット記事日本を紹介しておきます。一つ目は『東洋経済ONLINE』の大坂直樹記者による「JR西「大雪で車内閉じ込め」、なぜ防げなかったか 計画運休の判断は?危機回避できた4つの節目」です。
二本目は、『PRESIDENT Online』の鉄道ジャーナリスト、枝久保 達也氏による記事、「乗客の「10時間車内閉じ込め」は十分に避けられた…JR西日本が犯した「3つの判断ミス」」
この二本の記事でも問題にしているのは、乗客数千人が、最長10時間近く車内に閉じ込められていたことです。マスコミとしての節度だと思いますが、この点についての問題意識はもっと強烈であって良いというのが、私の「異次元の違和感」だったのです。
仮にあなたが、電車の中に10時間閉じ込められていたと考えて見て下さい。老化現象で私にとっての最大の問題はトイレです。7000人の中には高齢者もいたはずですね。トイレはどうしていたのでしょうか。そして10時間も閉じ込められていれば、お腹も空きます。食べ物はあったのでしょうか。さらに、満員電車の中で10時間立ちっ放しを強制されたとしたら、ほとんどの人には耐えられないはずです。
思考実験を続けて、これがあなたの書斎で起きたと仮定して見て下さい。10時間、書斎に閉じ込められて、トイレにも行けない、食べ物もない、座れないとしたら、これは立派な虐待です。
「ポイントが凍結して、電車が動かない。我慢して下さい」で済まされる問題ではありません。そして、バーナーを使ってもポイントの凍結を融かすことはできなかったことも当然報告され共有されてたでしょうから、大目に見て、1時間立ったくらいの時点で、「電車から降りて貰って近くの駅まで歩いて貰う」という結果にならないのは非人間的です。
しかしながら、こんな結果になってしまったのは、現場と上層部との認識が違っていたからなのだ、という考え方もあるようです。『YAHOO! JAPANニュース』に掲載されている渥美 志保氏の記事「【JR西日本の立往生問題】「上の判断に逆らえば損をする」...?倫理観が麻痺することの「ヤバさ」について」が参考になります。
私が言うまでもなく乗客の方たちはみんな「さっさと降りて、近くの駅まで歩かせてくれ」と思っていただろうし、Twitterには「乗務員はその判断で一致している」という車内アナウンスもありましたが、上が許さなかったとか。
たやすく想像できる「列車外を歩いて何かあったら」という責任問題に対し、「どんな人がどんなふうに閉じ込められているのか」には頭がいかない、というの日本の官僚的な組織の縮図のようにも思えました。この一件に関しては、もちろんこれが一番の問題。
とはいえ私がより驚いたのは別のことーー「上の判断に逆らうと私たちが処罰されてしまう」というような車内放送があったという乗客のツイートを見たことです。
なぜそうなってしまうのかを知りたいところなのですが、その前にJRでは、長期間にわたって、「上の判断」に服従することが金科玉条になっていたようなのです。それを詳述しているのが、『YAHOO! JAPANニュース』にアップされている心理学者、島崎敢氏の記事、「JR西の長時間閉じ込め 「乗客を線路へ」なぜ即断できないのか」です。
2011(平成23)年に北海道・石勝線の第1ニニウトンネル内で起きた脱線火災事故では、乗客に対して外に出ずに列車内で待機するよう指示が出されたまま、その後の避難誘導が行われなかった。
それは、事故があれば「即時停車」という規則があるからなのです。しかし身の危険を感じた乗客が自らの判断で逃げ始めたため犠牲者は出なかったそうなのです。乗務員の機転で犠牲者を出さずに済んだケースもあるのです。
1969(昭和44)年、北陸トンネルを通過中の列車で車両火災が発生した。この時、「トンネル内では消火活動は困難」だと判断した乗務員は、トンネルを抜けるまで列車を走らせ続け、犠牲者を出さずに済んだ。しかし、機転を利かせた乗務員は「即時停止の規定に違反した」として処分されてしまったのだ。
この3年後の1972年、くしくも同じ北陸トンネルを通過中の列車で、再び車両火災が発生した。過去にマニュアル通りに列車を止めなかった乗務員が処分されていたこともあり、この時の乗務員はトンネル内で列車を急停車させた。その結果、煙が充満して消火活動ができなくなったトンネル内で、30人の犠牲者を出す大惨事となってしまった。
規則を守ることが何より優先され、その結果として乗客が10時間も「虐待」に等しい状況に置かれることは、二の次になっていることが良く分かるではありませんか。
それをさらに裏付けているのが、JR西日本の長谷川一明社長の言葉です。枝久保氏の記事から引用します。
26日のJR西日本東京定例会見で長谷川一明社長は、本来は「1時間が経過して復旧できない場合は徒歩誘導を検討する社内基準がある」としながらも、「夜間、大雪の中で歩くのはリスクが大きいため、列車の運転再開を優先してしまった」と説明する。
こちらは、「社内基準」を守らないことで乗客の苦痛を増す決定を正当化しています。「大雪の中を歩くリスク」を軽減することは可能です。それを十分に検討もせずに、苦しみは弱者に負わせる姿勢しか見えてこないことに怒りを感じますし、絶望的な思いにさえなりかねません。
守るべき時に守らない、守らない方が良い時でも守らせる――誰が「ボス」なのかを示すために規則はあるのでしょうか。こんな日本社会を変えるために、私たちは何をすれば良いのでしょうか。一緒に考えましょう。
最後に、今日一日が皆様にとって素晴らしい24時間でありますように!
[2022/2/2 イライザ]
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