エントロピー

2022年8月11日 (木)

『水素エコノミー』(下)

『水素エコノミー』()

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昨日に続いて、『水素エコノミー』の(下)をお届けします。その中で、「ハバートのベルカーブ」という言葉が出てきます。本文中に一応の説明はしてあるのですが、分り難いかもしれません。

簡単に言ってしまうと、横軸に年、縦軸に世界の石油の生産量を示すグラフを描くと、それが「ベルカーブ」、つまり釣り鐘型になり、石油生産のピークは2010年から2030年くらいになる、というモデルを指します。「世界」の石油生産量ではなく、「アメリカのアラスカとハワイを除く州」の生産量を縦軸に取ると、1970年がピークになるという予測を立てたのが、地質学者のハバートで、その結果、アメリカだけではなく、世界的にも同じことが言えるだろうという予測が立てられたのです。

このグラフの形や位置は、世界の石油の埋蔵量と、毎年の石油の消費量によって決まります。2003年当時とは、その両者とも違った数字になっていますので、事は簡単ではありません。今後も変わるであろうことも予測できます。しかし、石油そのものが有限の資源であるという前提からは、どこかでベルカーブのピークに達するであろうことは確かでしょうから、このモデルを有効に使うことが大切です。

さらに、エネルギー源をロシアだけ、中東だけに過度に依存することの危険性もウクライナ戦争から再認識されています。その点でも、水素燃料が再度脚光を浴びてもおかしくはありません。

以下、2003年7月25日号の『春風夏雨』です。

 

『水素エコノミー』(下)

2003725

前回のお約束通り、今回は『水素エコノミー』の内容を紹介したいと思います。

著者のジェレミー・リフキン氏は私の好きなノンフィクション作家の一人ですが、評論家・作家・研究者等、どの範疇にも入らないユニークな活動を続けています。日本でも彼の著書『エントロピーの法則』がかなり読まれたようですからお馴染みの方も多いと思います。

『水素エコノミー』の通奏低音もエントロピーです。この概念を正確に定義するにはかなりの知識が必要ですが、一般的には、全ての物は、外から働き掛けがなければ、秩序のある状態から混沌・混乱の状態に推移する、とでも言えると思います。この「物の状態」に付けられる数値がエントロピーと呼ばれ、エントロピーの大きくなることがすなわち、無秩序の状態だということなのです。

資本主義経済学は、初期のニュートン力学を元に構築されており、エントロピーなどを扱う熱力学的な考え方はほとんど取り入れていない、というのがリフキン氏の主張ですが、エントロピーの考え方を元に、人類史や現在のエネルギー状況を考えるというのがこの本の前半の展開です。

エントロピーの概念を経済学に取り込んでローマから現在の世界まで、歴史を見直すことで、今まで十分に理解されていなかった動きがハッキリ分るようになってしまうことに、改めて科学の力を認識させられています。これまで別の著作の中で読んだことはあったのですが、そのときも魔術を見るような思いでした。しかし、それ以上、勉強になったのは第二章「ハバートのベルカーブを滑り落ちる」です。地球全体では、石油の埋蔵量は大体これから60年持つ位だろうというのが長い間、多くの人が言い続けて来た予測です。この埋蔵量を毎年ごとの石油の生産量グラフという形にすると、ベルカーブ(釣鐘の形)になる。しかも、その天辺を過ぎた時点から石油の生産量は減少し、価格も高くなる、というのが、現在世界的に「標準的」だと考えられている数値モデルだというのです。しかもそのピークには早くて2010年頃、遅くてもそれから20ないし30年後だろうという予測が大勢を占めるというのですから驚きです。

いわば、恒久的な石油危機が近付いているという話です。天然ガスも余り頼りにならないことも付記されていると、絶望的なシナリオになりそうですが、そこで登場するのが燃料電池であり、水素エネルギーなのです。簡単に説明しておくと、燃料電池とは、水の電気分解を正反対の方向で捕らえることで電気を作る仕組みです。中学校の理科を思い出して頂きたいのですが、水の中にブラスとマイナスの電極を入れると、水は水素と酸素に分かれます。逆に、水素と酸素を一緒にしてやれば、電気が生じるという原理の応用です。その結果、「滓」として残るのは純粋の水ですから、この点からもクリーンなエネルギーだということはお分かり頂けるでしょう。

燃料電池の特色の一つは、現在の研究開発の目的の一つが家庭用の燃料電池を実用化することにあるように、小型の燃料電池でもその効率は大型のものとは変らないという点です。例えば原子力発電との違いはこんなところにあるのです。しかも、モジュール化できるので、つまり、小さい物をまとめて簡単に一つの電池にすることも可能なので、柔軟性があることも特徴の一つです。地域毎の小さい規模の燃料電池ステーションでその地域の電気を賄うという将来図を描いて頂ければと思います。

後は、どのように水素を得るのかが問題ですが、リフキン氏は至って楽観的です。これも電気分解によって水から得ようというのですが、その電気には再生可能なエネルギー、太陽光や風力、地熱、バイオマス等々を考えています。

短絡的に考えると、そんなことをするのなら、直接、例えば太陽光発電で得た電気を使えば良いようなものなのですが、問題は、それでは夜、電気を使えないという問題が残ることです。どこかでこの電気を貯蔵する装置が必要なのです。しかも効率良く。それが燃料電池です。

リフキン氏はこの燃料電池を丁度現在のインターネットのようにつなげて、世界的なエネルギーの網を作ることで、経済システムそのものを今のものとは全く違ったものにしたいと考えています。それが夢のような話なのか、もっと現実性のある、人類にとっての希望の源になるのか、是非、『水素エコノミー』を読んだ上で判断してみて下さい。

皆さんの読後感もお寄せ頂けると幸いです。

 

炎暑とともに豪雨も各地を襲っています。コロナについてもまだ油断はできません。皆様、くれぐれも御自愛下さい。

 それでは今日が、皆さんにとって素晴らしい一日でありますよう。

[2022/8/11 イライザ]

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2022年8月10日 (水)

『水素エコノミー』

『水素エコノミー』

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森嶋通夫著の『日本の選択』を御紹介しましたが、世界的に選択を迫られているのがエネルギー源です。それについて、2003年にとても役立つ本、『水素エコノミー』を読んでいましたので、今回はその本の紹介です。

市長時代には、二週間に一度、「春風夏雨」と名付けたメルマガに、様々な話題を取り上げていたのですが、そこで二回にわたって紹介したのがこの本です。今日は、その(上)です。

『水素エコノミー』(上)

2003年7月10日

私にとっての読書は趣味と言うより、「活字中毒」とか「衝動」だと言った方が適切かもしれません。とにかくたくさんの書物・雑誌・書類に目を通しています。そんな中で何年かに一度、「自分で書きたかった」と感じる本にお目に掛ることがあります。ジェレミー・リフキン著の『水素エコノミー』(柴田裕之訳、NHK出版刊)は最近特に強く私がそんな感じを持った一冊です。

誤解を避けるために、「自分で書きたかった」と感じる本とそれ以外の本との違い等について、一般論としての詳しい説明をしたいのですが、それは機会を改めてということにして、今回は『水素エコノミー』の内容を説明したいと思います。

今、広島市では、「未来エネルギー研究機関」の立地誘導を目的に研究会を開催しています。メンバーは燃料電池に関心のある企業と研究者約20名です。時間的な流れに沿って、この研究会に至るまでの道筋を辿ると、その出発点は、2000年の秋にデトロイトでアメリカの自動車三大メーカーの一つであるジェネラル・モーターズ(GM)を訪れ、広島の自動車関連技術評価のための調査団を派遣して貰う合意ができたことです。GMは約束通り、三つの調査団を合計数回派遣してくれました。

その結果、第一の調査団「部品調達」の分野では、その後、21社が世界最適調達リストに登録され、これまでにGMも含めた販路拡大という大枠で約200億円の成約があったと聞いていますし、第二の調査団つまり「デザイン」分野の調査団の来広が出発点になって、広島自動車デザイン開発会社が立ち上がりました。三番目の調査団「R&D」の分野の専門家が広島大学の研究陣に対して高い評価をしてくれたのが、未来エネルギー研究機関の立地誘導を始めるきっかけになりました。

世界の自動車メーカーが現在最大の関心を持って開発しているのが燃料電池であることは言うまでもありません。広大の研究者の中でもこの燃料電池関連の研究において、先端的な結果を出していることは、国際的にも注目されてきてはいました。ある地域に優秀な研究者がいても、同時にその研究者が他の地域に移動すると、人と共に技術の未来も失う結果になり兼ねません。事実、アメリカでは良く見られるシナリオです。逆に、その研究者の下に世界からさらに多くの優秀な研究者が集まってくるという可能性もあります。今後の広島市の経済的な基盤作りという観点からだけ考えても、燃料電池の技術ならびにその先を行く技術において、広島地域の強みをさらに強くする政策が必要なことは言うまでもありません。広島市に何とかエネルギー研究所をという方向性は、この考え方を発展する中で生まれたと言っても良いと思います。

燃料電池の開発を行っている地元の企業そしてエネルギー一般について関心のある研究者からなる研究会を数回開く中で、いくつか明らかになった点がありました。一つは、燃料電池の開発は自動車用だけではなく、家庭用、地域用としての価値が高いということ。さらにエネルギーという観点から考えると、単に燃料電池という技術のみに限って考えるのではなくエネルギーを生産・送出・消費といったシステムとして考えなくてはならないこと。また、当然のことながら、私たちは国家プロジェクトとして研究の支援を行うのではなく、一つの地域が手掛ける訳だから、例えば広島地域における自給自足の実験を行うといった、地域特性が生かせるものに焦点を合わせるべきであること等です。

この会議には私も参加させて貰いましたが、各企業の研究開発の現況報告や専門家による研究内容の説明など大変勉強になりました。さて、その次が問題です。私はこの会議に出席していましたので全体像が分りましたし、分らない部分は自分で勉強して補うことで私なりに「未来エネルギー研究機関」の意味やその姿を描くことができたのですが、さて、これをより広く市民の皆さんに分り易く説明するにはどうすれば良いのか。その説明を市民の皆さん向けに書きたい気持、そして書かなくてはいけないという義務感だけは私にもあるのですが、何せ時間がありません。研究会参加の皆さんも似たり寄ったり、という時点で『水素エコノミー』が出版されたのです。しかも、何故、今、私たちが「未来エネルギー研究機関」を立地誘導しようとしているのか、原点からの詳しい説明になっているではありませんか。

大分前置きが長くなりました。いよいよ内容なのですが、「エントロピー」等と言った、説明が必要な概念も出てきますのでこれまた長くなりそうです。メルマガには、ハードコピーの出版物におけるページに相当する概念がないといえばないのですが、とは言え、余り長くはできません。と言うことで、是非、次回をお楽しみに。もっとも、これだけ前口上を申し上げてしまったのですから、内容の要約を読む前に本屋に走った方が早いかも知れません。

「本屋に走った方が早いかも」と書きましたが、それは2003年の話です。今は恐らく簡単には手に入らないかもしれませんので、アマゾンの方が早いでしょう。

炎暑とともに豪雨も各地を襲っています。コロナについてもまだ油断はできません。皆様、くれぐれも御自愛下さい。

 それでは今日が、皆さんにとって素晴らしい一日でありますよう。

[2022/8/10 イライザ]

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