姉妹公園協定のために投下責任を「棚上げ」? ――「棚上げ」して、誰が得をするのか?――
姉妹公園協定のために投下責任を「棚上げ」?
――「棚上げ」して、誰が得をするのか?――
藤永茂著『ロバート・オッペンハイマー』です
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ここで連日取り上げているのは、広島市議会での市側の答弁です。念のために繰り返しておきましょう。中国新聞によると、21日の広島市議会の一般質問で、広島の平和公園とホノルルのパールハーバー国立公園との姉妹公園協定が取り上げら、市側の答弁が、「協定は、原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げにし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図るために締結した」だったのだそうです。
口実として使われた、「市民社会の機運醸成」を省略しても、[何のために] [何をする] の関係は損なわれませんし、論理的な関係がはっきりします。広島市の主張は、姉妹公園協定を結ぶために、原爆投下の責任論は棚上げにした、ということになります。
でも、これって事の重さの判断が逆ですよね。広島市とパールハーバー国立公園が姉妹都市協定を結ぶことが、原爆投下の責任論に関わるような重大事なのでしょうか。そうだとしたらそれは何故なのでしょうか。この点については、再度取り上げますが、今日はこの棚上げで得をするのは誰かを考えます。
一つは、映画「オッペンハイマー」の日本公開で得をする人たちです。例えばこの映画を見たいと願っている人たちも多いかもしれません。興行成績のよさから得をする人たちも含まれます。
もう一つ、広島市と広島市長も得をする側なのかもしれません。長くなりますので、この点は次回以降に回します。
さてオッペンハイマーに戻って、もう一度、オッペンハイマーを今取り上げる意味について、一つの問題提起をしておきたいと思います。私自身この映画を見ていませんし、当分は見る気もないので、それがフェアではないという考え方もあるかもしれませんが、大切な問題提起であることには変りがありません。
まず、東京新聞の22日の記事から引用します。
日本では公開されていない本作を鑑賞した米カリフォルニア州在住の映画評論家町山智浩さんに聞いた。
町山さんによると、全体で3時間の長作で、前半はオッペンハイマーが研究者として原爆開発にのめり込む姿が中心。後半は原爆投下後の広島の写真を見せられて下を向く描写や、共同研究者たちの体が原爆によって焼けただれる幻視のシーンがあるなど、主に開発者としての苦悩が描かれている。そして、最後は原爆開発を後悔するせりふで幕を閉じるという。
マスコミ等の見解として私が読んだものには、この中で、実際には被爆の実相には触れられていない点が問題なのではという指摘が多くありました。つまり、写真は見せられても、その写真そのもの、あるいはその被写体についての描写がないという点です。
それも大切な点なのですが、私が注目したのは最後のシーンです。「最後は原爆開発を後悔するせりふで幕を閉じるという。」なのだそうですが、これはオッペンハイマー本人に取っては聞き捨てならない点なのです。
映画の原本になったカイ・バードとマーティン・シャーウィンの『オッペンハイマー』にも、昨日のこのブログで紹介した藤永茂著『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(1996年、朝日新聞社。2021年、筑摩学芸文庫)にも同じ点が強調されているのですが、オッペンハイマーは「後悔していない」ばかりではなく、「後悔した」という内容の戯曲の上演を訴訟を起こしてまで阻止しようとしたほどなのです。以下、藤永氏の著所からの引用を中心に、その点をまとめておきましょう。
1964年、西ドイツの作家キップハルトの戯曲『オッペンハイマー事件』が発表され、各国で評判になました。日本でも1966年に俳優座劇場で上演されたそうです。
この作品は、作者によると資料に基づいて厳密に事実に密着したものだということなのですが、藤永氏は、多くの資料に基づいてこれは文学作品だと断定しています。
オッペンハイマーはこの戯曲を嫌悪して、プロデューとーを告訴してまで上演を阻止しようとしたと、物理学者のフリーマン・ダイソンが書いていると、藤永氏は述べています。それは、戯曲の最後の部分にある「告白」がオッペンハイマーには我慢できなかったようです。
キップハルトの戯曲についての感想を、オッペンハイマーがボームに書き送った手紙の日付は1966年12月5日、喉頭ガンのため、話すことも、食事をとることも困難になっていた。二カ月半後には世を去る。
「私がロスアラモスでしたこと、することができたことについて遺憾の意を表することを、私はこれまで決してしなかった。事実、 いろいろな場合、何度も同じような場合に、書きものにもして、あのことを私は後悔しなかったという気持の確認をつづけてきた。 キッブハルトの書いたことで、特に気分が悪くなるのはあの最後の告白だ。そこでは、まさにそうした後海を私がしたことになっている。責任と罪についての私自身の気持は、今まで常に過去よりも現在により強くかかわるものであったのであり、これまでの私の人生で、現在にかかわることだけで私の手に余るものがあった」
にもかかわらず、映画では、後悔したということにしたのか、そう誤解されるような撮り方をしたのかは分りませんが、オッペンハイマーは、普通の意味での後悔はしていないのです。そして、原爆を考えるときにこの点は、無視しては通れない問題を提起していると私は感じています。
最後に皆さんにとって、今日一日が素晴らしい24時間でありますよう!
[2023/9/26 人間イライザ]
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