加藤友三郎の政治スタイル ――米国全権のヒューズと相照らす関係だった――
加藤友三郎の政治スタイル
――米国全権のヒューズと相照らす関係だった――
ワシントン軍縮会議と加藤友三郎を高く評価しています
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広島市出身の初の総理大臣加藤友三郎の偉大さについて紹介していますが、そのための資料として欠かせないのが、前回御紹介した工藤美知尋著の『海軍大将 加藤友三郎と軍縮時代』(2011年、光人社。『工藤』と略します)であり、郷土史家の田辺良平著の『わが国の軍備縮小に身命を捧げた加藤友三郎』(2004年、春秋社。『田辺』と略します)なのですが、もう一冊、忘れてはならないのが麻田貞雄著の『両大戦下の日米関係--海軍と政策決定過程』(1993年、東京大学出版会。『麻田』と略します)です。
今回は、『麻田』を引用しながら、友三郎の政治スタイルならびにアメリカの全権だったチャールズ・ヒューズ国務長官と好一対の存在としての友三郎の姿をお伝えします。
まず、友三郎の意思決定スタイルについて『麻田』では次のように述べています。
ここで加藤全権の決定スタイルを要約しておくと、次のようになる。すなわち、 ①あくまで冷静な彼は、ひとりだけで「熟慮に熟慮を重ねた」のち、②最高位者個人として「直観的に」結論をくだし、③決定行為とその結果に対してみずから全責任を負うというもので、一言でいえば《独断専行型》決定の典型的なケースであった。もともと臨機応変の決定をつねに迫られる軍部の組織には、官僚的な《稟議制》はあてはまらないものだが、加藤全権の場合、《官僚政治》の拘束要因など頭から度外視して、独自の判断で海軍軍縮の《合理的決定》をくだしたのである。海軍・外務両省の官僚機構を完全に避けて通っていることに、とりわけ注目される。
そしてこの決定結果を本国の知らせるルートとしては、加藤⇒外相という外務省ルートではなく、加藤⇒井出海軍次官を通して、首相と外相そして東郷元帥等の海軍首脳に伝えるという、海軍ルートを使うことで、ここでも官僚機構を避けていたのです。
日本の加藤に呼応して、アメリカの全権ヒューズも似たような意思決定をしていました。二人の相似性について、これまた『麻田』が興味深い分析をしています。
以上、日米の政策決定過程の比較から、いくつかの共通点が浮かびあがる。まず第一に、両国の首席全権であるヒ、ーズ国務長官と加藤友三郎海相が、《官僚政治》の制約をはねのけて強力な決定権限をフルに行使したこと、があげられる。通常、官僚制的システムにおいては、その保守性に加えて「組織の慣性」(「官僚的惰性」)のゆえに、流動的な国際環境に即応できず、消極的な現状維持策や当座しのぎの糊塗策に堕し、長期的な政策思考にもとづく迅速かっ明確な《合理的決定》が困難になる傾向がある。日本外務省の直面したのは、まさにこの種の困難であった。他方、ヒューズや加藤全権は政府部内の組織的利益の競合、対立、バーゲン、妥 協といった《官僚政治》プロセスを回避しえたのであり、その大きな要因は、なんといっても両人の強力な個人的リーダーシップに求めることができる。加藤友三郎とヒューズとの類似点は、当時『萬朝報』の特派員も注目するところであった。
「ヒューズ氏は終始一種の信念を固持して、之を常識的に直截的に押進めて行く米国代表政治家である。加藤大将も亦確乎たる信念を抱いて其の所信に驀進する代表的武人である。両者共其外交家的術策を弄せぬ点は、或程度迄相似て居る。これ両者の間に常に一脈の意思の疎通があった所以であらう」。
くりかえしていうならば、この二人がくだした《合理的決定》に共通する前提条件は、 次のように要約できよう。「 ①まず、正確かっ豊富な情報をマスターし、それにもとづき的確な状況判断をおこなう。②次に、選択可能な一連の政策オプションを検討し、その優先順位を定め、目的・手段的思考により、目標達成の極大化をはかる政策を採用する。③こうしてくだした決定の結果を正しく予測する。
このように、海軍軍縮問題については、日米の政策決定過程に共通するものがあり、日米とも最高指導者のリーダーシップが最大限に行使されたので、《合理的決定》が可能になった
このように官僚制度を凌駕し、日米間の溝を塞ぎかつ未来への希望を創り出すほどの力の源は、友三郎の人間性そのものに由来するのではないかと考えています。次回はそれを取り上げます。
そして皆さんにとって、今日一日が素晴らしい24時間でありますよう!
[2023/7/7 人間イライザ]
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