広島で被爆者を裏切ってはいけない (4) ――「ヒロシマ・アクション・プラン」には被爆者が登場しない――
広島で被爆者を裏切ってはいけない (4)
――「ヒロシマ・アクション・プラン」には被爆者が登場しない――
被爆者 故石田明先生
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最初の部分は繰り返しになりますが、2022年2月24日ロシアがウクライナに侵攻し、プーチン大統領が核兵器を使うぞとの脅しをかけて以来、ロシア(そして全ての核保有国)に「核兵器を使わない」と宣言するよう促すキャンペーンを始めました。2022年3月1日、Change.orgの署名運動です。(長いので、「第一キャンペーン」または「宣言キャンペーン」と呼びます。)」
そして、G7広島サミットの直前、2023年5月9日には、Change.orgを通して「これで核は使えなくなりましたね」と岸田総理の念押しを促すキャンペーンを始めました。(こちらは「念押しキャンペーン」と呼んでおきましょう。)
「宣言キャンペーン」には、アメリカ大使館から書簡を受け取った旨の返事がありましたが、その他の国々から直接のコンタクトはないまま、8月1日に岸田総理は、NPT再検討会議に出席して、「ヒロシマ・アクション・プラン」なるものを公表しました。国連での岸田演説の最初の山を紹介しておきましょう。
「被爆地広島出身の総理大臣として、いかに道のりが厳しいものであったとしても、「核兵器のない世界」に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。そして、その原点こそがNPTなのです。」 続いてNPTの説明があり、その後に「ヒロシマ・アクション・プラン」の内容が披露されています。それは「五つの行動を基礎」としており、そのトップが次の一節です。
「まず、核兵器不使用の継続の重要性を共有すべきであることを訴えます。ロシアの行ったような核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはなりません。長崎を最後の被爆地にしなければなりません。」
昨日は、総理自身が、「被爆地広島出身の総理大臣」であることを強調しているからには、それに伴う責任として、最低限、「被爆者の気持を理解し、代弁する総理大臣」としての役割を果さなくてはならないことを指摘しました。今回はその続きです。
さて、次に進みましょう。「いかに道のりが厳しいものであったとしても、「核兵器のない世界」に向け」は、その通りです。しかし、それは次の言葉、「現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならない」を単に修飾しているに過ぎない表現なのです。つまり、「被爆地広島出身の総理大臣」が被爆者を代弁する第一の言葉が現実的に事を進めることなのです。
確かに現実的に事に当たらなければ何事も前に進みません。しかし、被爆者たちが言って欲しいと願ってきたことはそれではありません。被爆者の思いを代弁する立場であるなら当然、言及しなくてはならない言葉が欠けています。
被爆者の思いは、自分たちが生きている内に何とか核兵器を廃絶して欲しいということですし、そのためには、「被爆地広島出身の総理大臣」である「私」は、どんな苦労も厭わない、という決意を聞きたかったのです。その言葉があって、次に、しかし現実は厳しい、その現実を乗り越えるために、被爆者と涙を共にし、知恵を絞り汗を流して努力すると、被爆者に誓う言葉があって然るべきだったのです。
冒頭の部分で、「被爆地広島の総理大臣として、被爆者の皆さんの悲願である「核なき世界」を実現するため、全力を尽くすことをここで誓います」と言っても問題はなかったはずですし、それに続けて、「しかし、現実の厳しさも見詰めなくてはなりません」とつなげることは可能だったはずです。
なぜ、それくらいのことも言わなかったのでしょうか。「被爆者」という言葉を使いたくなかった、というのが大きな理由だったのではないでしょうか。「ヒロシマ・アクション・プラン」の中で、「被爆者」という言葉を使えば、被爆者の存在、歴史の重みから、アクション・プラン全体に影を落すことになるからです。
それは、五つの基礎の最初に掲げられている「まず、核兵器不使用の継続の重要性を共有すべきであることを訴えます」にも及びます。核兵器が使われなかったのは、被爆者たちが自らの体験を世界に訴え続けてきたからだ、と多くの人が受け止めている事実を想起させることになってしまいます。
それを避けて、核兵器を持ち使うぞと脅すことで核は使われなかった、という趣旨の「核抑止論」が正しかったからだ、という結論に導くには、「被爆者」という存在をこの文書から抹殺しておく必要があったのです。
さらに、次の表現の「原点」には、もっと大きな違和感を持ちました。被爆者の立場から言えば、原点はあくまでも被爆体験です。8月6日と9日です。そしてその後の悲惨かつ苦しみに満ちた日々なのです。それを「省略」して、いきなり何故「NPT」なのでしょうか。「被爆者」という言葉を使わなかったのは、読み手をこんな疑問から遠ざけるためだったと考えると辻褄が合います。
さらに、五つの基礎の最初の項目で、「まず、核兵器不使用の継続の重要性を共有すべきであることを訴えます」と強調していることと合わせて考える必要もあります。岸田総理は、他のスピーチ等で、「77年間」と言っていますので、ここでの「核兵器の不使用」は長崎以降の歴史を指しています。しかし、NPTが条約として効力を持ったのは、1970年ですし、その効力を無期限に延長することになったのは、1995年です。
つまり、1945年の長崎以降、1970年までの間の25年間、核兵器が使われなかったのはNPTがあったからではないのです。それは、NPTが「原点」ではあり得ないことの証明でもあります。
被爆者に取っての本来の「原点」には触れずに、論理的には「原点」とは言えないNPTを持ち出してくる意図はどこにあるのでしょうか。ようやく、前半の結論に近付いたのですが、長くなりましたので、今日はここで一休みして、明日に続きます。
「「核兵器を使わない」と、直ちに宣言して下さい!」キャンペーンは続けます。
そして皆さんにとって、今日一日が素晴らしい24時間でありますよう祈っています!
[2023/5/26 人間イライザ]
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