ChatGPTに国会答弁をさせてはならない ――機械にさせてはならないことがあるからだ――
ChatGPTに国会答弁をさせてはならない
――機械にさせてはならないことがあるからだ――
内閣官房内閣広報室
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Yasutoshi_Nishimura_20190911.jpg
このコラムでは、ジョセフ・ワイゼンバウム教授の問題提起を出発点にして、AIと人間がどう付き合うべきなのかということを考えています。それに関して、西村経産大臣が重大な発言をしたのですが、それについてのマスコミの捉え方が控えめに言って不十分なのではないでしょうか。
ITmedia等によると発言内容は、「機密情報の取り扱いなどの懸念が解消されれば、国会答弁の対応などへ活用を検討していく」です。それ以前に、3月29日の衆議院内閣委員会では、立憲民主党の中谷一馬議員がChatGPTに作らせた質問を読み上げ、岸田総理が答弁した後、ChatGPTが作った岸田総理の答弁も披露しました。
皮肉なことに、実際の岸田総理の答弁とはそれほど違った内容ではありませんでした。岸田総理は、自分の答弁の方が関係者の名前を挙げているので実態をより反映した答弁になっていると、ChatGPTと自分との優劣の問題にしてしまいましたが、これはAIを使う上での本質を逸らしてしまっています。(ITmedia NEWS, 松浦立樹氏による「ChatGPTが国会にも登場、質問案を作成 岸田総理 vs.AI で答弁の比較も 誠実なのはどっち?」)
ワイゼンバウム教授が『コンピュータ・パワー』の中で、繰り返し強調しているのは二つの点です。一つは、人間と機械には違いがあること。もう一つは、機械ができるかどうか、それも上手くあるいは早くできるかどうか等にかかわらず、人間が機械にやらせてはいけないことがある、という点なのです。
『シラノ・ド・ベルジュラック』のストーリーは御存じだと思いますが、クリスチャンの恋文をシラノが代筆し、それにロクサーヌが恋をします。このシナリオの中で、シラノの代りにAIが、特にChatGPTが代筆をしたと考えて見ると、本質が見えてくるかもしれません。
国会の質疑とは本来、主権者に国政の運営を委託された国会議員と大臣が、全体の奉仕者としての立場に立って、自らの言葉で国政についての問題点を糺したり、政策についての提言を行ったり、行政の立場についての丁寧な説明を行うことを意味します。繰り返しますが、大切なのは「自分の言葉」です。委託されているのは「自分」なのですから、その自分が責任を持つということは否定できないのです。
つまり、主権者に対しての責任を全うするのは人間であって機械ではないのです。にもかかわらず西村発言に対するマスコミや国民からの反応が余りにも鈍いのには理由があります。
今回の西村発言が私たちに突き付けているのは、ChatGPTを使うべきかどうかという点だけではないのです。残念なことに、総理大臣もその他の大臣たちも、官僚に甘え切っています。官僚に書かせた「答弁」をその通りに読むことが総理大臣はじめ大臣たちの習慣になってしまっているからです。
言い換えると、国会の質疑は既に、「官僚制度」という機械に答弁をさせる習慣にしてしまっているから、ChatGPTを使うことに何の疑問も抱かないのです。(機密情報の取り扱いは、別の次元の話ですので、ここでは割愛します。)
機械をスムーズに動かす上で、一つの部品を別の部品に変える方が好都合だというだけのことになってしまっているのです。
私たち主権者が、再度、国会の質疑の本質を問い直し、人間同士が責任を持つ言葉でやり取りをする場に戻すために、声を上げ続けましょう。
最後に今日一日、皆さんにとって、素晴らしい24時間でありますよう!
[2022/4/12 イライザ]
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