日本が壊れて行く? (7) ――「公共の福祉」を、人権無視の口実に使うな――
日本が壊れて行く? (7)
――「公共の福祉」を、人権無視の口実に使うな――
岸田・荒井発言について、海外では同性婚の法的位置付けがどうなっているのか、広く報道されています。G7の加盟国7か国中、同性婚を法的に認めていないのは日本だけという事実を前に、日本政府や自民・公明の与党は何を考えているのでしょうか。
それだけではありません。東京弁護士会「LGBT理解増進法案に関する会長声明」では、
国連人権理事会における普遍的定期的審査(2008年、2012年、2017年)においても、性的指向及び性自認に基づく差別を撤廃するための措置を講じることが日本に対して勧告されている。また、経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、LGBTに関する法整備状況を比べると、日本は35カ国中34位ということである。
と、世界における日本の特異性が際立っていることを指摘しています。
ここで国際比較が大切なのは、岸田・荒井発言で、「国を捨てる人、この国にいたくないと言」う人がかなりの数いるという形で、日本以外の国に移住する人のことを心配しているからです。私も心配です。例えば、同性婚を希望している人たちの中には、それを認めない日本に住み続けたくない、法律も社会も自分たちを人間として扱ってくれる国に移住しようと考える人が出て来るかも知れないではないですか。その人たちに日本に留まって貰うために、まずはLGBT理解増進法を制定するのが順序なのではありますまいか。
なぜ、そんなことになっているのか、その根本原因はどこにあるのかを考え、何とかこんな状態を改善したいという思いから以下、「日本社会における憲法の解釈が甘すぎるから」という私の「診断」を説明します。
詳しくは、拙著『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論――』(法政大学出版局)をお読み頂きたいのですが、性的指向や性自認は一人の人間という存在そのものに関する欠かすことのできない重要なの一部です。それを尊重しなくてはならないことは人権の尊重から当然です。
憲法の13条は「すべて国民は、個人として尊重される。」と、その点を強調していますし、この権利を侵してはならないことも11条と97条が保障しています。
第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
大切なのは、人権が憲法上、「侵すことのできない永久の権利」であるという点です。しかも二つの条文で繰り返し強調しているのですから、それに反する解釈が正しいということにはもっと慎重であるべきだと思います。
憲法を良く御存じの方からは、それでは、第13条の後半はどう考えれば良いのかという疑問が出されるはずです。その点こそ、『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論――』が問題にした点なのです。
第13条の後半は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」です。その解釈は、定説・通説では、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利そのものが、公共の福祉に反しない場合には、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする、という命題だということになっています。
詳しくは、拙著の第三章と第四章、そして付論3を読んで下さい。簡単に結論だけ述べておくと、性的指向や性自認も含めた人権を侵してはいけないのです。それも「永遠に」なのです。さらに、尊重されるべき個人を守るために、政府は最大限の努力をしなくてはならないのです。まず行動しなくてはならないのです。
では何が制限されているのかというと、政府の行動です。最大限の努力をした積りになっていても、それが「公共の福祉」に反する場合が出てくるかもしれない。それが明らかであれば、政府はその行動を変えることにする、という規定です。
そして、ここで重要になる「公共の福祉」とは、拙著を読んで頂けると、「憲法の総体から導き出される結論・価値」であることが分ります。
憲法99条では、内閣に憲法遵守義務を課していますから、個人を尊重するために、最大の努力をすることは義務なのです。内閣はLGBT理解増進のために、誰よりも先に努力する必要があるのです。総理の8日の国会答弁のように、議員立法を見守る、あるいは議論を否定しないなどというのは、傍観者の言うことであって、憲法を守る義務のある内閣の姿勢としては許し難いものなのです。
繰り返しますが、そんな姿勢が許されてしまう背景にある、人権そのものが「公共の福祉」というお題目で制限できるという憲法解釈が問題なのです。しかも、ここで使われる「公共の福祉」の定義はないのですから、結局、「何でもあり」になって行くことは目に見えています。教育勅語や旧統一教会の教えなどがそこに顔を出しても、それが「公共の福祉」に沿ったものだという言い訳が準備されていれば、自らの人権についての意識を省みることもなく、岸田・荒井発言が「当然の」流れで出て来ることになるのです。
最後に、今日一日が皆様にとって素晴らしい24時間でありますように!
[2022/2/9 イライザ]
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