平和への権利宣言 ――国連は、平和への権利を個人の権利として認めている――
平和への権利宣言
――国連は、平和への権利を個人の権利として認めている――
岸田・荒井発言を考えるに当って、前回は、性的指向や性自認が「人権」として重要な意味を持つことを確認した上で、人権を守る義務を課されている内閣や日本政府が、その義務を蔑ろにして傍観者としてしか関わっていない現状を指摘しました。
今回は、元参議院議員で弁護士の大脇雅子さんの近著、『武力に寄らない平和を生きる――非暴力抵抗と平和的生存権』の中から、平和への権利も人権の一部なのだという点を強調しておきます。沖縄、憲法、平和という重いテーマを分り易くかつ重層的、法的、歴史的観点から詳細に分析した上で、これから私たちがどのような運動を展開すべきなのか、そして政治をまともなものに創り直して行くためには何をすれば良いのかについて、説得力のある展望を示している力作です。
是非、お読み頂きたいのですが、その中から一項目だけを抜粋して紹介しておきましょう。国連は2016年12月19日に、「平和への権利宣言」を131か国の賛成、34か国の反対で採択しました。その概略は次の通りです。
平和とは、紛争のない状態だけでなく、対話が奨励され、紛争が相互理解及び相互協力の精神で解決される積極的で動的な参加型プロセスを追求し、並びに社会経済的発展が確保されることである。
第1条 すべての人は「平和を享受する権利」を持つ。
第2条 国家は、恐怖と欠乏からの自由を保障する。
害3条 国家、国際連合、専門機関、ユネスコは、実施するための持続可能な手段をとり、すべての市民社会はこれを支援援助する。
第4条 対話、協力及び連帯を強化する教育を促進する。
第5条 この宣言は、国連の目的と原則に反するものと解釈しない。
日本政府は、反対票を投じたのですが、その理由を大西健介衆議院議員の提出した質問主意書への答弁の中で述べています。それは、「平和の権利宣言の理念については賛同できるものの、十分な審議を経ずに採択された」からだと言うのです。
平和の定義の中では、「積極的で動的な参加プロセス」が一つの柱ですので、もし十分な審議が行われていないのなら、それなりの理由にはなるのですが、それ以上の重みを持っています。
日本政府として「十分な審議を経ずに」という理由が国際的に通用する、しかも理念については賛成している事柄についても通用すると主張しているのです。だったら、理念そのものに疑問符が付いているようなことについては、当然「反対」しなくてはならないという主張です。
となると、日本政府、少なくても外務省は安保三文書に反対しなくてはならなくなります。国会での審議を経ずに(つまり、十分以下です)アメリカに約束した軍拡も、増税してまでアメリカのミサイルを買うという決定も皆、反対しなくては筋が通りません。「十分な審議を経」ていないのですから。
誰が見ても「矛盾」でしかあり得ない主張を繰り返しても、それは、岸田内閣の決まり文句、「丁寧な」説明とは到底言えませんし、「国民を舐めるな」という声がますます大きくなるはずなのですが--。
最後に、今日一日が皆様にとって素晴らしい24時間でありますように!
[2022/2/10 イライザ]
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