なぜ、憲法が機能していないのか ――矢部宏治氏によると憲法より上の安保法体系が原因――
なぜ、憲法が機能していないのか
――矢部宏治氏によると憲法より上の安保法体系が原因――
矢部宏治著『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』の43ページから
沖縄に象徴される日本の政治の歪と醜さは、昨2月11日のこのブログで紹介した前泊博盛氏の言葉が分り易く表現しています。
「アメリカ軍はアメリカ国民を守ろうとしているんです。アメリカ国民ですから。犯罪者であろうと(自国の)国民を守ろうとしている米政府に対して、被害者すらも守ろうとしない日本政府の姿が、浮き彫りになった気がします。米軍は大事にするけれども、日本国民である被害者は大事にしない。そして、再発防止にも後ろ向きであると」
なぜこんなことになってしまったのかについては、矢部宏治氏が『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』の43ページの図で説明してます。本来であれば、図の右側にあるように、憲法が最上位にあり、それに従って日米地位協定も安保条約もその内容が決められ、憲法の許す範囲での解釈が行われるべきなのです。
しかし現実は、一番上の憲法がその役割を果せずに、安保を中心としたアメリカとの条約群(その中には密約も多く含まれます)が、憲法以上の力を持ってしまっています。そんなことになってしまったのは、再び矢部氏の力作から引用すると、「政府のあらゆる部門に対して、憲法によるコントロールが欠けており」、その結果、「国民の意思が政治に反映されず、国民の人権が守られない」ことなのです。
この問題を解決するために矢部氏はまず、フィリピン・モデルを日本でも採用すべきだと提案しています。それは、憲法を改正して自衛隊の存在を認めることと、外国の基地は日本国内に置けないという条項を加えるという内容です。その方法でフィリピンからはアメリカの基地がなくなったのです。
もう一つの矢部提案は、ドイツが戦後一貫して取り組んできたように、ソ連・ロシアも含めて、周辺諸国に対する謝罪を真摯に行い周辺諸国との信頼関係を作ることです。日本であれば、韓国・北朝鮮そして中国との関係がまず頭に浮かびます。
さて、憲法改正ということになると、私も一言、付け加えておきたくなります。一つには、改正する前に、どの部分で憲法違反が行われているのかをできるだけ正確に認識・確定しておく必要があるのです。
つまり、憲法が存在する以上、それを遵守しなくてはならないという原則そして義務を再確認する必要があるのです。憲法違反を認めたままでさらなる改正をすることは、改正された憲法についても「違反をして良い」というパターンを認めることになり兼ねないからです。
どんな憲法違反が行われているのかを調べる上で出発点になるのは、憲法がどんなことを規定しているのかを知ることです。当り前のことをなぜ改めて述べるのかというと、実は多くの皆さんが憲法を書かれている通りに読んでいないからなのです。
例えば、憲法の教科書の定番として知られている芦部信義著の『憲法 第六版』では、「法律によっても、さらに憲法改正によっても、侵してはならい権利として、絶対的に保障する考え方を取っているが、それは人権が無制限という意味ではない」と述べています。
つまり、人権という権利に踏み込んではいけないが、制限するのは問題ないと解釈しているのです。こんな矛盾を許せば、論理的には、後は何でもありになってしまってもおかしくありません。
実は、憲法にはその他にも矛盾のあることは皆さん御存知だと思います。うっかり改正してしまうと、それらの矛盾をさらに大きくしてしまう可能性もあるのです。それも含めてもう一度、素直に文字通り読んでみる、しかも論理を透徹させることを優先して読んでみることが、憲法議論の出発点であるべきだと思います。
そこから、矢部提案をどう考えるべきなのかについてのヒントも得られます。
詳しくは拙著『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論――』をお読み下さい。(何度も拙著の宣伝をしていますが、他の書物で同じような読み方をしているケースがありませんので、お許し下さい。図書館で借りて頂ければ幸いです。)
最後に、今日一日が皆様にとって素晴らしい24時間でありますように!
[2022/2/12 イライザ]
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