「国葬儀」とは、「棄民」政策の成れの果て
「国葬儀」とは、「棄民」政策の成れの果て
この稿を書いているのは9月26日ですが、それは国連の定めた「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」です。明日27日は安倍元総理の「国葬儀」です。今回は、この二つの日を本質的に結ぶ文書を再度紹介します。最初に紹介したのは、4月16日の本ブログでした。タイトルは、「無辜の民間人の命と生活 ――かつては顧みられなくて当然でした――」です。
そうなのです。「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」と安倍元総理の「国葬儀」とをつなぐ文書は、1980年12月に「原爆被爆者対策基本問題懇談会」、略して「基本懇」が発表した意見報告書です。略して「基本懇答申」または「答申」と呼びます。
この答申のキー・ポイントは、
- 戦争は国が始める。(これが大前提でないとこのような答申は書けません)
- でも、戦争による犠牲は、国民が等しく受忍しなくてはならない。
- ただし放射能による被害は特別だからそれなりの配慮は必要--「お情け」的福祉観。
- しかし、一般戦災者とのバランスが大切。
- 国には不法行為の責任や賠償責任はない。
このような、戦争肯定とその被害に対する開き直りを、恥じることなく言語化した人たちが誰だったのかも記憶し続けなくてはなりません。委員(全員故人)は7人います。
茅誠司・東京大名誉教授(座長)
大河内一男・東京大名誉教授
緒方彰・NHK解説委員室顧問
久保田きぬ子・東北学院大教授
田中二郎・元最高裁判事
西村熊雄・元フランス大使
御園生圭輔・原子力安全委員会委員
茅、大河内の二人は東大の総長を務めた人たちです。日本政治を動かしてきた官僚組織・制度や日本の思考の元となる学問の世界、その他にも財界や産業界等、いわゆるエスタブリッシュメントを構成するエリートたちを育ててきた人たちです。
そのエリートたちの答申ですから、問題の多いことは当然なのですが、改めて整理しておきましょう。
- 国が市民の上位にあり、市民に「犠牲」を強いている。
- 支配/被支配関係でしか人の命を捉えていない ⇒ 国民主権を否定していることになる。
- 再度、戦争をするという前提でものを言っている--絶対に戦争をしないのであれば、何年掛かっても犠牲に対する補償はできるし、する。
- 憲法の精神も、戦争放棄の決意も否定している。
「国」が国民をこれほど粗末に扱っている状態は、「棄民」という言葉が一番ピッタリ来るように思えます。
その上で、26日と27日の意味を考えて見ましょう。「核兵器の全面廃絶」を、命を懸けて訴えてきたのは被爆者です。被爆者援護法とは、本来であればその被爆者の訴えに耳を傾け、彼ら/彼女らの命と生活を支援するために、「国」の戦争責任を認めて、その結果生じた原爆の被害についての補償をする手段なのです。ところが、その援護法についての諮問を受けた基本懇の答申が、「受忍論」だったのです。
つまり「国」は、戦争の犠牲は国民に押し付け、責任も取らず補償もしない。国民はそれを「受忍しろ」という内容です。ただし、被爆者が亡くなったらせめて線香の一本くらいは国が立てて欲しいという被爆者の気持は、「葬祭料」という形で援護法に含まれています。でも、戦争で亡くなった一般戦災者の場合、そのような最低限の形さえないのです。
「国葬儀」とは、戦争の犠牲まで「国民」に押し付ける「国」が、これまた「国民」に押し付ける「葬儀」なのです。亡くなった方への弔意の示し方は個人によっていろいろでしょうが、「国葬儀」を断固否定しなくてはならない理由がもう一つ増えました。
[2022/9/27 イライザ]
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