『水素エコノミー』
『水素エコノミー』
森嶋通夫著の『日本の選択』を御紹介しましたが、世界的に選択を迫られているのがエネルギー源です。それについて、2003年にとても役立つ本、『水素エコノミー』を読んでいましたので、今回はその本の紹介です。
市長時代には、二週間に一度、「春風夏雨」と名付けたメルマガに、様々な話題を取り上げていたのですが、そこで二回にわたって紹介したのがこの本です。今日は、その(上)です。
『水素エコノミー』(上)
2003年7月10日
私にとっての読書は趣味と言うより、「活字中毒」とか「衝動」だと言った方が適切かもしれません。とにかくたくさんの書物・雑誌・書類に目を通しています。そんな中で何年かに一度、「自分で書きたかった」と感じる本にお目に掛ることがあります。ジェレミー・リフキン著の『水素エコノミー』(柴田裕之訳、NHK出版刊)は最近特に強く私がそんな感じを持った一冊です。
誤解を避けるために、「自分で書きたかった」と感じる本とそれ以外の本との違い等について、一般論としての詳しい説明をしたいのですが、それは機会を改めてということにして、今回は『水素エコノミー』の内容を説明したいと思います。
今、広島市では、「未来エネルギー研究機関」の立地誘導を目的に研究会を開催しています。メンバーは燃料電池に関心のある企業と研究者約20名です。時間的な流れに沿って、この研究会に至るまでの道筋を辿ると、その出発点は、2000年の秋にデトロイトでアメリカの自動車三大メーカーの一つであるジェネラル・モーターズ(GM)を訪れ、広島の自動車関連技術評価のための調査団を派遣して貰う合意ができたことです。GMは約束通り、三つの調査団を合計数回派遣してくれました。
その結果、第一の調査団「部品調達」の分野では、その後、21社が世界最適調達リストに登録され、これまでにGMも含めた販路拡大という大枠で約200億円の成約があったと聞いていますし、第二の調査団つまり「デザイン」分野の調査団の来広が出発点になって、広島自動車デザイン開発会社が立ち上がりました。三番目の調査団「R&D」の分野の専門家が広島大学の研究陣に対して高い評価をしてくれたのが、未来エネルギー研究機関の立地誘導を始めるきっかけになりました。
世界の自動車メーカーが現在最大の関心を持って開発しているのが燃料電池であることは言うまでもありません。広大の研究者の中でもこの燃料電池関連の研究において、先端的な結果を出していることは、国際的にも注目されてきてはいました。ある地域に優秀な研究者がいても、同時にその研究者が他の地域に移動すると、人と共に技術の未来も失う結果になり兼ねません。事実、アメリカでは良く見られるシナリオです。逆に、その研究者の下に世界からさらに多くの優秀な研究者が集まってくるという可能性もあります。今後の広島市の経済的な基盤作りという観点からだけ考えても、燃料電池の技術ならびにその先を行く技術において、広島地域の強みをさらに強くする政策が必要なことは言うまでもありません。広島市に何とかエネルギー研究所をという方向性は、この考え方を発展する中で生まれたと言っても良いと思います。
燃料電池の開発を行っている地元の企業そしてエネルギー一般について関心のある研究者からなる研究会を数回開く中で、いくつか明らかになった点がありました。一つは、燃料電池の開発は自動車用だけではなく、家庭用、地域用としての価値が高いということ。さらにエネルギーという観点から考えると、単に燃料電池という技術のみに限って考えるのではなくエネルギーを生産・送出・消費といったシステムとして考えなくてはならないこと。また、当然のことながら、私たちは国家プロジェクトとして研究の支援を行うのではなく、一つの地域が手掛ける訳だから、例えば広島地域における自給自足の実験を行うといった、地域特性が生かせるものに焦点を合わせるべきであること等です。
この会議には私も参加させて貰いましたが、各企業の研究開発の現況報告や専門家による研究内容の説明など大変勉強になりました。さて、その次が問題です。私はこの会議に出席していましたので全体像が分りましたし、分らない部分は自分で勉強して補うことで私なりに「未来エネルギー研究機関」の意味やその姿を描くことができたのですが、さて、これをより広く市民の皆さんに分り易く説明するにはどうすれば良いのか。その説明を市民の皆さん向けに書きたい気持、そして書かなくてはいけないという義務感だけは私にもあるのですが、何せ時間がありません。研究会参加の皆さんも似たり寄ったり、という時点で『水素エコノミー』が出版されたのです。しかも、何故、今、私たちが「未来エネルギー研究機関」を立地誘導しようとしているのか、原点からの詳しい説明になっているではありませんか。
大分前置きが長くなりました。いよいよ内容なのですが、「エントロピー」等と言った、説明が必要な概念も出てきますのでこれまた長くなりそうです。メルマガには、ハードコピーの出版物におけるページに相当する概念がないといえばないのですが、とは言え、余り長くはできません。と言うことで、是非、次回をお楽しみに。もっとも、これだけ前口上を申し上げてしまったのですから、内容の要約を読む前に本屋に走った方が早いかも知れません。
「本屋に走った方が早いかも」と書きましたが、それは2003年の話です。今は恐らく簡単には手に入らないかもしれませんので、アマゾンの方が早いでしょう。
炎暑とともに豪雨も各地を襲っています。コロナについてもまだ油断はできません。皆様、くれぐれも御自愛下さい。
それでは今日が、皆さんにとって素晴らしい一日でありますよう。
[2022/8/10 イライザ]
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