『日本の選択』(森嶋通夫氏の無条件降伏論)を読んでいます
『日本の選択』(森嶋通夫氏の無条件降伏論)を読んでいます
ウクライナ戦争による悲惨な声や映像が「リアル・タイム」で伝えられていることで、私たちは大きなショックを受けています。子どもたち、女性、そして老人の死を目の前で見せられ、住宅や学校、病院やショッピング・センターがミサイルや爆弾の標的になっている様子が毎日届くのですから当然です。ウクライナの人々が避難民となって自分の国を離れる悲劇も胸を打ちます。
そして連日伝えられる衝撃的な報道から、私たちは戦争の全てを知っていると結論付けてしまうことにもなり兼ねません。民心扇動政治家たちは、このような同情心が作る心の隙間に入り込み、フェーク・ニュースや危険なシナリオを吹き込んでいます。
戦争を知らない世代に拙速な議論を吹き込み、誤った結論を流布しているのです。「核共有」、「敵基地攻撃能力」、「日本を強い国にする」、軍事費の「倍増」、改憲による戦争と軍隊の「合憲化」等です。
それに対する反論は様々な形でできるのですが、8月6日を機に、経済学者、森嶋通夫氏の名著『日本の選択』を読んでいます。昭和の名著の中でも特筆に値する一書です。このブログでも西日本豪雨の後、防衛省を防災省に看板替えするようにという論考中に紹介していますが、皆さんにも是非、読んで頂ければと思います。気分が爽快になること請け合いです。
《概要》
森嶋通夫氏は、1923年に生まれ、2004年に亡くなりましたが、晩年は1988年の定年まで、世界的に有名なロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSEと略されることが多い) の教授として「レオン・ワルラス、カール・マルクス、デヴィッド・リカード等の理論の動学的定式化に業績を残している」のですが、世俗的にはノーベル経済学賞の候補として何度も名前が挙っていたことでも知られています。
『日本の選択』は、1978年9月に森嶋氏がロンドンから東京に帰る日航機の中で読んだ関嘉彦氏 (早大客員教授) のエッセイを読んでショックを受け、その反論として翌1979年に北海道新聞に書いた反論が元になっています。
それに対する関氏の再反論、さらには、この論争に加わった猪木正道、福田恆存氏とのやり取りも採録されています。森嶋氏の立派なところは、自らの主張に批判的な関、猪木、福田という三氏の言い分もきちんと取り上げて、真正面からの論争にしていることです。ラベル張りもされていますし、福田氏からは「大嘘つき」とまで言われながら相手が逃げられないようなリングに引っ張り出した上で、胸の空くような論破をしています。その力量とフェアな態度には、ただただ感心するばかりです。
ごく簡潔に森嶋氏の主張をまとめておきましょう。
森嶋氏が展開する「国防論」は、関氏が「ハードウェア」つまり、軍備を主軸に論じているのに対して、「ソフトウェア」つまり非軍事の外交、経済、文化、そして明示的には示していませんが、災害救助等を中心にした国防論です。
さらに、自分の主張通りのシナリオにならなかった場合、つまり「最悪のシナリオ」ではどう対処すべきなのかという点を、議論の大切な一部として取り上げていることからも説得力が抜群に増しています。
少しセンセーショナルに、森嶋氏の「Worst Case Scenario」をまとめると、もしソ連軍が日本に攻め入って来たら、毅然とそして冷静に降伏して被害を最小限にした上で、ソ連の占領下でも日本社会の強みを生かした、許容範囲の社会を作るということです。もしそうしなければ失われるであろう数十万から数百万の生命を考え、国土の荒廃や財産の逸失を考えると、より損失の少ない選択肢を選ぶべきだ、という結論です。
炎暑とともに豪雨も各地を襲っています。皆様、くれぐれも御自愛下さい。
それでは今日が、皆さんにとって素晴らしい一日でありますよう。
[2022/8/7 イライザ]
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