ウクライナ停戦の可能性 (3) ――楽観論とは人類が学び続けていることを意味します――
ウクライナ停戦の可能性 (3)
――楽観論とは人類が学び続けていることを意味します――
前回も、太平洋戦争の最後の時期に、日本への空襲を総括した指揮官のルメイ将軍の言葉、「もし、この戦争に負けていれば、私は戦争犯罪人として裁かれただろう。幸運なことに、我々は勝利者だ。」を引用しました。カギになるのは「戦争犯罪」という言葉です。
その一つの解釈としては、戦争犯罪人にならないためには、どんな手段を使っても勝たなくてはならない、という勝利至上主義の言葉だと考えられます。もう一つは、圧倒的な勝利を目の前にして、自分の指揮した軍事行動が如何に酷いものであったのかを、「戦争犯罪」という言葉を使うことで「自慢」しているとの解釈も成り立ちます。
ウクライナ戦争でも、キーワードは「戦争犯罪」なのですが、その言葉が使われる文脈が全く違います。ルメイ将軍や軍の指導者たち、そして政治家たちはその言葉を知っていたのでしょうが、当時は庶民が日常的に使う言葉ではありませんでした。
ウクライナ戦争では、「戦争犯罪」も「人道に対する罪」も「国際法違反」も、多くの市民が今回の戦争、特にロシア側の行為を判断するときに使う言葉になっています。そして、世界中の人々が、画像を通じて今回の戦争の実態を知っています。
「即時停戦」と「ロシア軍のウクライナからの撤退」が、世界的コンセンサスになっているのは、このような背景があるからです。
それで思い出すのが、かつてのベトナム戦争です。ベトナム戦争でも私たちは、「即時停戦」と「アメリカ軍のベトナムからの撤退」を叫び続けました。そして、時間はかかりましたが、結果はその通りになりました。しかし、ウクライナ戦争で違うのは、停戦後の世界の評価です。
ベトナム戦争中のアメリカ軍
Public domain
つまり、どのような形で戦争が終ったとしても、ロシアにとって大切なのは、その後の世界がこの戦争をどう位置付けるかなのです。そのために、仮にロシア軍による「完全勝利」として終った場合、世界がどう反応するかを「思考実験」してみましょう。
世界が求める即時停戦が実現しないということは、今より多くの民間人が亡くなり、民間施設が破壊され、今より多くの避難民が世界中に助けを求める状態が続くということを意味します。それを現場からの音声付画像で見る世界の人々からの、プーチン大統領、そしてロシアに対しての非難は今の十倍、百倍になってもおかしくはないでしょう。
プーチン大統領やロシアに対して「平和の使徒」、「人類の希望を灯し続けた」という評価が出てくることはまず考えられない状況になるでしょう。それどころか、プーチン大統領もロシアも世界から孤立し、その評価を変えるためには飛んでもない時間がかかるはずです。
ベトナム戦争との大きな違いは、アメリカが完全にベトナムから撤退したことですし、当時の世論の中心的概念には「戦争犯罪」も「人道に対する罪」も「国際法違反」も入っていなかったことです。人類が長い間掛かって築いてきた普遍的な概念が世界的に共有されるまでには、ベトナム戦争から半世紀もの時間が必要だったということになります。それでも、この50年間に人類がここまで進化したことの意味は大きいのではないでしょうか。
[2022/4/19 イライザ]
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